第12話 かくして、票は割れた 1 ~衆議院議員総選挙兵庫県第X区編


 選挙によっては、候補者の属性と得票数、それに伴う結果などを見て、ひょっとするとこれ、何かの「謀略」が働いたのではないか、裏で候補者同士が繋がっていたのではないか、などということを、なまじ推測させてしまうような例がないわけでもない。もちろんそれは大抵の場合、候補者同士には何のつながりも意図もないものの、結果的に、そういうものがあったのではないかと推理させてしまう要素がそこに見受けられるだけ、という次第。話のネタとしては、確かに面白いのだけれどね。


 典型的なパターンとしては、ある方向の政策や政治信条を訴えている人たちの間から、複数の候補者が出て、本来なら彼ら1人しか出ていなければ確実に当選するか、しないまでも大善戦するぐらいの票数になるはずが、複数出ているゆえに票が分かれ、その分、別の政策や政治信条を訴えている候補者がその2人より多くの票を得て当選してしまう、というもの。

 このパターンの選挙は、すでにご紹介している2012年10月の岡山県知事選挙と同時に行われた岡山県議会議員補欠選挙の中央区補欠選挙で丹生芳香氏が当選した、まさに、永野さんと出会ったあの記念すべき選挙が、その典型例だ。


 同じような例は他にもあって、2014年12月に行われた衆議院議員総選挙当日の出口調査のアルバイトで出向いたH県X区の選挙情勢が、それに近かった。民自党と創明党の与党が推す小関候補が前回に引き続き小選挙区当選したのだが、当時の野党系は候補者が乱立し、日本改革の会系の候補者が2名(うち1人は前職で、前回比例復活当選者)、勤労党系の候補者が1人、それに協産党の候補者が1人。なぜ日本改革の会系から2人も候補者が出たのかということだが、前回の総選挙時に推薦を得られるかどうかでこの2名が争い、その結果、前職の新見候補が推薦を得られ、選挙の結果小選挙区では負けたものの比例復活で当選したといういきさつがある。推薦を得られなかった名和候補はというと、県議会議員をそのまま継続したが、この選挙時はとにかく出たい、仮に落選してもその3か月後には一斉地方選挙があり、そこで県議選にもう一度出馬すれば確実に議席を得られるから、というわけで、結局2名が票を食い合って、小選挙区で「共倒れ」になるばかりでなく、前回比例復活した新見候補は比例でさえも復活できなくなってしまった。もし彼らの間で「一本化」がなされていれば、小関候補は比例復活こそできたものの、小選挙区当選できなかったであろうことが、票数を見ればわかるような結果になった。

 その後新見候補は3か月後のK市議選でそれほど縁のなかったX区より立候補し、市議会議員に「返り咲く」ことができた(彼が最初に選挙に当選したのが、K市議選。ただし、別の区の選挙区だった)。名和候補は、前回と同じくT選挙区で県議選に立候補し、H県議「失職」から半年経たぬ間に、再びH県議に返り咲けた。


 地方選挙寸前の国政選挙には、どういうわけか、先に国政選挙に立候補して落選しても、その後しっかり地方選挙に出て、元々いた議会の議席に「返り咲く」という手を使う政治家がいる。国政選挙に出ることで、それまでの都道府県や市町村議会議員の議席は、立候補が受付けられたと同時に「失職」する。そのような候補者の常として、たいていの場合、国政選挙では当選どころか「比例復活」さえもまずかなうことなく、落選する。場合によっては、供託金さえ没収されてしまいかねない。そうなれば、ポスターやガソリン代、その他もろもろの経費も公費負担がなくなってしまう。

 それでも、その後間もなく行われる都道府県や市町村議会議員の選挙には立候補できないわけではないから、そこで再び、立候補する。

 よほど悪名が轟いたり、有権者にあまりに嫌われてしまったりしない限り、そこでまず確実に当選できる。かくして、半年しない間に、元のさやに納まって、それからまた4年間、議席を確実にすることができた! という塩梅になる。

 確かに、失職している間の議員報酬は手に入らないし、国政選挙に出ることによる「持ち出し」はそれなりにあるけれども、その間、議会を気にすることなく堂々と正面切って選挙活動と政治活動ができるから、存外悪い話でもないといえばないのだ。

 いやむしろ、人によっては、状況によっては、「おいしい話」にさえなろうものである。


 ところで、このH県X区の日本改革の会系候補者2名の話、うがった見方をすれば、


 民自党の小関陣営につながる大物の誰かが、新見候補の小選挙区当選や比例復活を阻止すべく、同じ系列であまり仲の良くないことが明らかな名和候補に声をかけ、(裏で)金を出してその他便宜も図るから、総選挙に出てくれ、どうせ半年後には県議に戻れるし、悪いようにはしないから・・・などと言いくるめて選挙に出させ、新見候補の国会議員としての道を閉ざすという「謀略」を使った・・・


などという「ストーリー」を作ろうと思えば、確かにできてしまう客観的な情勢が展開されているように見えてしまう。

 もっとも、関係者(新見議員の元秘書)には、こんなことを言われた。


「話としては面白いですね、確かに。ですけど、新見はそこまでして「潰さなければならない」政治家というわけでもないですからね。ちなみに名和さんは、御自身がとにかく出たいということで出られただけですよ。結果として票が割れて新見の比例復活が「亡くなった」のは確かに残念ですけど。おかげで、私の首まで飛んでしまいましたわ。それはともかくとしましてもね、選挙後も、新見は小関さんに限らず民自党関係や、あるいは協産党関係の人とも、仲はいいですよ」


 ただ、その方の話では、K市の協産党のある仲の良い市議さんから、

「あんた、名和さんによほどな恨み買うたんちゃうか? うちはしゃあないとしてもやで、うまいことやって、名和さんに出んようにしてもろて、勤労党の横沢さんにももうひとつ上手にゆうて、そんだけ一本化できたら、あんたも、比例復活どころか、小選挙区でも当選でけたのに・・・、もったいないことしたなあ」

とか言われたとのこと。

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