朝を待つ

ナリミ トウタ

朝を待つ人

私はひとりだ

ここには誰もいない

ここには何もいない

声もさざめきも耳鳴りも空気の流れさえ


息を殺し、ひっそりと外を見ることもない


誰もが眠りに付き

朝を待つ

月の下、来るかも分からぬ夜明けを求める


このまま目覚めなければいい

このままでいられるならきっと傷付かない

このままでいたら誰も私を見つけてくれない

このままでいられるなら安寧に包まれて眠れるであろう

このままでいたら世界はどうなるのだろう


孤独に苛まれ

じわじわと指先から侵食されていく

心臓は冷たく

足先は針のむしろに踏み入れた時みたく痛みが走り

腹はぐるぐると何かが内部で走り回るがごとく掻き回すかのように

喉は音を刻まず

脳は鈍器で打ち付けられたかのような鋭い痛みが走る

しかし目は枯れ果てたはずなのに熱く何かが溢れだしそうになる


自ら選んだ筈なのに

無いものと目を背け固く瞑り

救いなど求めないと決めたはず


だったのに



苦しくて苦しくて苦しくて

波に拐われ

深海に沈むことも出来ず

中途半端に

寒いところで

息を止めることも出来ず

どこかで誰かに掬われるのを待っている


それを愚かだと思っていたはずなのに

求め始める自分が

身勝手で

有り難みを忘れた

愚か者であった



あたたかさを忘れ

心地よさを忘れ

満たされていた心を忘れ

大切にしていたものを取り零した


当たり前が失われることを何よりも

恐れていたのは

自分であったはずなのに

痛みを忘れるために

全てを棄ててしまいたかった


どうしようもない

途方のない

大切なものを無くし

自分を無くしたまま

置いていったまま

先を逝くのが怖かった


大切なものたちを

私は置いて逝く

私は大切なものたちを見届けられぬまま

先に逝く

私の頬に添えられる

私の手に触れてくれる

あたたかさを

私は永遠に手離して逝く


時刻は近い

朝がきた


最期まで孤独のままでいられなかった


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る