格と唯
一条 灯夜
流し雛
序章ー1ー
初夏の日差しは、高い木の梢に遮られるためにほとんど届かない。暑さも、蝉の声も。町の喧騒も――。
「なんと言えば、いいんでしょうね?」
僕よりもかなり年上の、スーツ姿の女の人に向かい……でも、彼女の質問の答えを言いあぐね、そんな台詞が出て来てしまった。
解、のようなものは、なんとなく分かっている。でも、それを表現する方法が分からない。言葉って、便利だけど時々凄く不便だ。
「例えば――、そうですね、貴女は太陽の絵を描く時、それを何色で塗りますか?」
昔の事を思い出しながら、それを口にする僕。
あれは……幼稚園の頃だったかな?
「赤、でしょうか?」
「そうですね、大多数の人はそうすると思います。でも、青い空を見上げて赤い色の太陽を見たことがありますか」
「ありません。太陽は……薄い黄色?」
「はい、夕焼けを描いたり宇宙の中の太陽を描けば別なんでしょうけど、青空にある太陽はそんな色ですよね。でも、赤く塗る」
それは、そうだけど……と、困ったような眼差しを向けられ、僕は少し微笑んでから続けた。
「多分、僕に欠けているのは、そうした普通の人が当たり前に持っているモノなのだと思います」
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