第1話

 DMMO-RPG「ユグドラシル」。


 西暦2126年に発売されたこのゲームは、その精巧な世界観とキャラメイクの奥深さから日本全国、そして外国でも熱狂的なファンを獲得して大勢のプレイヤーがユグドラシルをプレイしていた。


 しかし俺は最初、ユグドラシルにはあまり興味を持っていなかった。確かに自分の理想通りのキャラクターを作ってファンタジー世界を自由気ままに遊び回るというのは魅力的ではあったが、俺はどちらかと言うとファンタジーよりロボットの方が好きだったので、ロボットゲーム「アーベラージ」だけを遊んでいたのだ。


 そんなある日、俺はたまたま知り合ったアーベラージの上位ランカーの二人から、ユグドラシルで「パワードスーツ」という装備が登場することを聞いた。このパワードスーツは種類は全身鎧なのだが、外見はアーベラージに登場するロボットそのもので、これを知って俺はユグドラシルにプレイすることを決めた。


 ユグドラシルをプレイする前にネットとかで調べてみると、複数の職業のスキルを合わせたり課金アイテムを使用すると自分で自分だけのパワードスーツを製造できることを知り、俺は早速パワードスーツを製造して操縦するためのキャラクターを作ることにした。


 最初は給料の半分を課金することでユグドラシルの運営が販売しているパワードスーツを購入して、ひたすらモンスターと戦い職業を習得するためのスキルポイントを集めた。そうしている内にユグドラシルとパワードスーツを教えてくれたプレイヤー二人と、その二人が所属しているギルドのプレイヤー達とも知り合い、彼らの協力も得て俺は自分が予定していた職業を揃え、自分だけのパワードスーツを自力で製造することに成功したのだった。


 アーベラージでもパーツを組み合わせて自分だけのロボットを作り出すことは可能なのだが、作れる自由さはユグドラシルの方がずっと上であり、ユグドラシルで造り上げたパワードスーツは正に俺の理想の機体と言えた。だからなのか気がつけば俺はアーベラージよりもユグドラシルで遊ぶ時間の方が長くなり、パワードスーツに乗ってソロでモンスターを退治して、たまに協力をしてくれたプレイヤー達と大型ボスに挑むという日々を送っていた。


 その日々は今思い出しても充実していたと思うのだが、どんなものにも終わりは訪れる。


 多くの熱狂的なファンを獲得していたユグドラシルも時が進むに連れて過疎化が始まりプレイヤーも次々と離れていき、ついには発売から十二年が経った西暦2138年の今日、ユグドラシルはサービスを終了することとなった。


 しかしそれでもサービスが終了する最後の時までユグドラシルで遊ぼうとするプレイヤーも、少数ではあるがいた。


 俺、プレイヤー名「ロボ・バイロート」もそんなプレイヤーの一人だ。


 その日の俺は、今まで戦ってこなかった強力なモンスターとソロで戦っていた。


 俺が戦いを挑んだモンスターは複数のパーティーが協力して戦う、いわゆるレイドボスで、本来ならソロで戦って勝てる存在じゃない。しかし俺はユグドラシルの最終日だということで、今までもったいなくて使えなかった高レベルのアイテムや課金アイテムを惜しむことなく使い、数時間の死闘の末にレイドボスのソロ攻略という偉業を成し遂げたのだ。


 今日でユグドラシルは終わるのだが、それでもレイドボスを一人で攻略したという事実に、俺は達成感で胸が一杯だった。その時ドロップしたアイテムが、レイドボスを少人数で倒す事を条件に得られる「ワールドアイテム」という最上級のアイテムであったことも、嬉しかった。


「最後の最後で良いものが手に入ったな」


 そう言って俺がタイマーを確認すると、すでに時刻はあと一分で午前零時、つまりユグドラシル終了の時間にまでなっていた。


「ゲームバランスやらPKプレイヤーキラーやら辛い事も色々あったけど、それ以上に楽しかったよ……。ありがとう、ユグドラシル」


 俺は目を瞑ると、今までの思い出を思い返しながらこのユグドラシルの世界に別れの言葉を告げた。


 こうしてユグドラシルでの俺、ロボ・バイロートの冒険は幕を閉じるはずだったのだが……。


 この数秒後、俺の人生を大きく変える出来事が起こり、ロボ・バイロートの冒険はまだ終わっていない……いや、新しく始まったことを知るのだった。

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