となりの席の藍沢さんは俺の心が読めるらしい
さーしゅー
第1話 となりの席は藍沢さん
そのクジの番号を見たとき、心の中で『よっしゃあ!!』と叫んだ。
俺は今年三回目の席替えにして、ようやく後ろの席を引きあてた。それも一番後ろで、窓際よりも一つ手前の列という最高の立地だ。
これまでは前の席ばかりでロクなことがなかった。
先生に何回も当てられるわ、クラスメイトが近くに集まって落ちつかないわ、廊下を通る人にいちいち見られるわ……
でも、もうその心配はない!
俺は、一ヶ月の間ともに生き抜いた
机からの見える景色だってそう。いつも変わらない教室の景色も、なんだか別の教室に来たように思える。そんな新鮮な気持ちは、教室だけではなく、人を見る目も変えてしまったらしい。
左の席に座る女の子は、物静かに窓の外をながめていた。まるで、席替えなんて興味なさそうに佇んでいて、そんな彼女を一目見た俺は……
『となりの女の子かわいい!!!』
思わず心の中で叫んでいた。
その子は藍沢さんと言い、口数が少ない地味な女の子のイメージが強い。クラスの中であまり目立たない存在で、注目する機会も無かったから、こんなにもかわいい女の子だとは知らなかった。
明るい茶髪はふわっと肩まで流れていて、その垂れ目はなんだか優しそうな雰囲気をつくり、物静かなイメージともあいまっておしとやかにも見える。
『茶髪が似合っていてかわいいなぁ……』
藍沢さんは相変わらず、
『やっぱりかわいい………… 席替えでせっかくかわいい子の隣になったんだから、赤外線でメールアドレス交換しなきゃね、席替えだけに! なんてね……』
こ、これは一種の照れ隠しのようなものだと思う。いや、そう信じたい。心の中だから照れを隠すもなにもないけれど、かわいい女の子が近くにいたら照れてしまって冗談の一つでも言わなきゃバランスが取れない。
確かにこんな極寒のダジャレを口外したら翌日から誰も近づかなくなるかもしれないけど、あくまでも口内、心の中、たがら問題な……
「ふふっ……」
となりの彼女は突然クスリと笑った。あまりにも奇妙なタイミングに俺は冷や汗をかく。
『えっ、ウソ! もしかして、口に出ていた?』
俺は慌てて口に手を当て塞いだけれど、となりの彼女はこちらを気にする様子もなくスマホに視線を落とし首を傾げていた。
『よかった〜 でも、行動には気をつけたほうがいいな。藍沢さんすごくかわいいし、嫌われたくないし』
なんて思っていると、藍沢さんは頬を赤く染めていた。その赤らめた顔が俺の視線に気づくと、逃げるように教室の前の方を向いた。気になって視線をたどってみると、彼女の目先には、校内三大イケメンの一人、三島君がいる。
そんな彼女の熱視線に、俺の感想はただ一つ。
『やっぱり藍沢さんも面食いじゃん!』
俺はため息をついた。
『まあそりゃそうだよね、女の子はイケメン好きだし。好きな人のことをじっと見ちゃうよね。逆に女子の視線たどっていったら、その女子の好きな人わかっちゃうかも。まあ三島君の方に行くんだろうけど』
俺は吐き捨てるように心の中でつぶやいて、もうひといきため息をつく。そして藍沢さんの方へ視線を戻すと、その優しそうなたれ目と目が合う。藍沢さんはなぜかこちらをじっとみていた。
初めて真正面からみた彼女の顔はやっぱりかわいくて、つい見惚れてしまう。
『まあ、そりゃそうだよね。藍沢さんはこんなにかわいいんだから、カッコいい三島くんが好きなんだろう。それが世の中の釣り合いってものよ。で、でも、おっとり系に見えても実際は面食いだったとはねぇ』
俺は悔しくて、心の中で呆れたようにいってやった。イケメンとの格差に少しの嫌味でも言わないとやっていけなかった。だけど、目の前の彼女はまるで『違うよ』と言わんばかりにふるふると首を横に振った。
『え? あっ、ああ、面食いじゃないと。別に三島くんが好きじゃないと……』
彼女は、誤解を解くように何度もうなずいていた。
『ふーん、ま、まあね、そんな純情乙女もいてもおかしく…………って、ちょっとまてぇえ!』
とたんに藍沢さんは俺の視線から逃げるようにくるりと窓の外の方を向き、何事もなかったようにすまし顔をする。
『え? 俺口に出てた? いや、そんな恥ずかしいこと喋ってないよね?』
『なんで? たまたま? たまたまだよね? 不思議にシンクロニシティしてしまっただけだよね』
俺は心の中が読まれたことが不安になって、藍沢さんをじっと見ていると……
「あ、あの、そんな見ないでください。恥ずかしいです……」
めったに喋らない藍沢さんに、ボソボソとつぶやかれてしまった。
「あっ! ご、ごめん……」
俺は慌てて謝ると、藍沢さんから目をそらして顔を前に向けた。そして……
『やってしまったぁああああああ!!』
俺は頭を抱えた。
『もう変な人扱い確定じゃん! そんなわけないじゃん、なにがシンクロニシティだよ! もうお先真っクロニシティじゃねえかよ!』
「ぶっ……ふふっ……」
俺はすぐさま藍沢さんの方を向いた。さすがの藍沢さんとだけあって、吹き出し方もおしとやかだったけど、タイミングがおかしすぎる。ぴったり『お先真っクロニシティ』のところで吹いているんだから。な、なら……
『じゃ、じゃあ、布団がふっとんだー』
俺が心の中でそうつぶやくと、彼女は素早く机に顔を伏せた。そして、机の底から「ふふふ……」とかすかな笑い声が聞こえてくる。
『藍沢さんの笑いの沸点どうなってんの?』
『っていうか、やっぱ聞こえているでしょ?』
俺の心の中でつぶやくと、彼女は顔を上げて、ふるふると首を振った。
『なら違うのか……って、あってんじゃん!』
そのツッコミに藍沢さんは恥ずかしそうに視線を下に逸らした。そして、ここぞとばかりに言う。
「あまりみないで下さい……恥ずかしいので……」
『それズルくない? そんなこと言われたら何にも言えないよ』
俺は心で不満を投げかけてみるも、となりの藍沢さんはまさかの知らんぷりだ。
俺は席替えでせっかく後ろを確保できて、しかもとなりの子がかわいい、まさに最高の席替えだったのに……
『なんだか隣の藍沢さんに心が読まれてる!!!!』
この席はこの席で苦労する未来しか見えなかった……
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