14 「また会おうね」
Lの海馬の幾つかの
細胞に刻まれたエピソード記憶
「また来るね、また会おうね」と
Lが弟にかけた言葉
にっこり白い歯を見せた
そして会えたのか、
呼ばれていくと
意識は無くて体中で息を求めていた
「かっちゃん、お姉さんよ、大丈夫?」
大丈夫な訳ないのに尋ねた
「ああ」と大きな声が聞こえた
天井から響いたように
昏睡状態だったのに
いつもの弟の返事だった
誰にも安心感を与えてくれた
それが最後の声音だった
Lが明らかに悪いことをして
相手から責められた時、
「身内だからたとえ悪くても味方する」
そう明言した
Lが絶望して悶え泣いていた時
「いつか、いつか笑う日もくるさ」
そう明言した
楽天家の慌てたことの無い
Lの弟が逝った
病に負けじと戦ったのだが
静かに息を引き取った
Lはぼんやり考える
心配も苦労も大きな胸に
引き受けて
死も抱きとったことだろう
弟の会社の文字を見るたびに
ひとり此の世から去っていく寂しい姿が
抑えようもなく目の前に迫る
迫られて
Lに大きなため息をつかせるとしても
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます