楓【回想】
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先程から、足元を眺めたままずっと川に佇んでいる夢ちゃん。
(……何してるんだろ? ……可愛いなぁ)
そう思うと、俺はクスリと声を漏らした。
ーー俺は、初めて出会った日からずっと夢ちゃんの事が好きだった。
両親の離婚がキッカケで、小学4年の時に転校してきた俺。そこで、初めて自分よりも可愛い女の子に出会った。
色素の薄い髪に、真っ白な肌。垂れ目がちの大きな瞳に、小さな口と整った鼻。
それはまるで、精巧に作られたピスクドールのようだった。
俺は、一目で夢ちゃんの虜になった。
だけどーー
夢ちゃんの隣には、既に涼がいたんだ。
目の前に見える夢ちゃんが、突然ワンピースを捲り上げるとその場にしゃがみ込んだ。
川の中に手を入れ、何やら一生懸命にその手を動かしている。
(……ホント、可愛いなぁ)
夢ちゃんを眺めてクスリと笑い声を漏らすと、そろそろ自分も川へ入ろうと靴を脱ぎ始める。
その準備が終わった頃、ふと、目の前を見ると綺麗な貝殻が視界に入った。
その貝殻へと近付くと、川の中に手を入れて掴みあげてみる。
(夢ちゃんにあげたら、喜ぶかなーー)
そう思って夢ちゃんの方へと視線を移すと、さっきまでそこに居たはずの夢ちゃんの姿がない。
「……ねぇ。夢ちゃん知らない?」
「あっちに行ったよ」
近くにいた奏多に尋ねてみると、そう答えながら岩陰の方を指し示す。
俺は教えてもらった方へ行くと、夢ちゃんを探して岩場を
「ーー可愛いっ! 綺麗だね ……! ありがとう、涼くん!」
夢ちゃんの声が聞こえた方へと近付いてみるとーー
そこに見えたのは、貝殻を空にかざして嬉しそうにしている夢ちゃんの姿だった。
(……そっか。もう、涼に貰ったんだ……)
そう思いながらも、声をかけようかと暫く様子を伺う。
「ーーーーーー」
「ーーーー」
「ーーーーーー」
「じゃあ……両思いだね」
その言葉を聞いた瞬間、俺は持っていた貝殻をキュッと握りしめるとその場を後にしたーー
元居た場所へと戻る途中、おもむろに立ち止まると掌にある貝殻を見つめる。
「ーーそれ、夢にあげるんじゃないの?」
その声に反応して視線を上げてみると、いつの間に来たのか奏多が俺の掌を見つめていた。
「うん……。やっぱり、やめた」
ニッコリと笑ってそう答えると、近くにいた優雨ちゃんの元へと歩いて行く。
俺は優雨ちゃんの隣にしゃがみ込むと、優雨ちゃんに向かって貝殻を差し出した。
「ーーはい、これ。優雨ちゃんにあげる」
「えっ……、私? ……夢にじゃなくて?」
驚く優雨ちゃんは、そう告げながら俺のことをジッと見つめる。
「……うん。優雨ちゃんにあげるよ」
優雨ちゃんを見つめて小首を傾げると、俺はニッコリと笑ってそう答えた。
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