楓
※※※
夢ちゃんの様子を見る為に保健室へと向かっている途中、女の子に捕まってしまいすっかりと遅くなってしまった。
最近、夢ちゃんに避けられ続けていた俺は、今日、久方ぶりに夢ちゃんに触れたような気がする。
そんなことを考えながらも、保健室で見た夢ちゃんの姿を思い出すーー
首元に付けられた、いくつかの痕。あれは、奏多に無理矢理付けられたのだろう。
奏多とだって、本当は付き合ってなどいないはず。それは、見ていればわかること。
奏多を見る夢ちゃんの瞳は、酷く怯えているからーー
(夢ちゃん、まだいるかな……)
「奏多っ!! 夢を離してっ! やめてっ! ……やめてよ!!!」
ーーー!?
保健室の近くまで来てみると、突然聞こえてきた争うような大きな声。
次の瞬間ーー
奏多に無理矢理引っ張られている夢ちゃんと、それを必死に止めようとしている優雨ちゃんが、もつれるようにして保健室から出てきた。
「ーー何やってるんだよ!」
俺はそう叫ぶと3人の元へと駆け寄り、奏多の肩をグッと掴んだ。
「……奏多。何やってんの?」
チラリと目線を下へと向けてみると、奏多に腕を掴まれた夢ちゃんが泣いている。
その横に視線を移してみると、今にも泣き出しそうな顔をしている優雨ちゃんの姿がある。
「……何? この状況。奏多、何やってんの?」
「楓には関係ないよ」
冷めた顔をした奏多が、チラリと俺に視線を向ける。
「夢を離してっ!……夢を離してよっ!!」
奏多の腕を掴んでいる優雨ちゃんが、必死に奏多から夢ちゃんを引き離そうとする。
「離してあげなよ……。夢ちゃん、泣いてるよ」
俺は奏多の腕を掴むと、その手にギュッと力を込めた。
それでも全く離そうとする気配のない奏多に、掴んだ腕をグッと持ち上げると無理矢理夢ちゃんから引き離す。
「奏多……。最近、おかしいよ? どうしたの? 夢ちゃん泣かせるなよ」
「……楓には関係ないって言っただろ」
そう言って俺を睨みつける奏多。
「夢っ……。大丈夫?」
奏多から解放された夢ちゃんをそっと抱きしめると、心配そうに顔を覗き込む優雨ちゃん。
ーーすると、それを見た奏多が突然声を荒げた。
「夢に触るなっ!」
突然の怒声に、ビクリと肩を揺らして驚いた優雨ちゃん。その腕の中で、怯えた夢ちゃんが小さく身体を縮こませる。
「やめろよ、奏多!」
奏多の肩を掴むと、今にも夢ちゃん達に向かって行きそうなその動き止める。
奏多はそんな俺の手を振り払うと、俺の胸倉を掴んで鋭く睨みつけた。
「……逃げてばかりいるお前に、とやかく言われたくはないね」
ーーーーーー
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