ヒューリパイとネギ男
武志
ヒューリパイとネギ男
ヒューリパイは体の大きな女の子。踊り子を目指しています。
今日も家の近くの石橋の上で、ちくわぶをだしに漬け込んだ弁当をいっき食いしていました。そして気付いたように立ち上がり、せっせと踊りの練習を始めるのでした。石橋の上は、彼女のお気に入りの踊りの練習場所です。お腹がすいたらまた、ちくわぶの弁当を食べました。
「あー、あたしゃ天才だなあ、こんなに踊れてこんなにかわいいなんて」
ヒューリパイは食べ終えると、眠くなってきました。石橋の真ん中で、お腹をかいてガーガー寝始めました。でも、石橋は川にかかっているので、体の大きなヒューリパイがそこで寝てしまうと、誰も橋の向こう側に行けなくなってしまうのでした。
カエルがやってきてそこを通ろうとしたとき、石橋の真ん中で寝ているヒューリパイに言いました。
「ちょっとそこどいてよ。僕通りたいんだよ」
ヒューリパイは目を覚ましました。
「うるせえ! あたしゃ眠いんだ。通りたきゃ、回り道していきな!」
「そこをなんとか……。急いでいるんです。娘の入学金をさっさと支払わなきゃならないんです」
「うるせえ! 回り道して行けばいいんだ! 向こうへ行け!」
ヒューリパイはそう言って、寝ながらカエルを蹴り飛ばしました。今度は石橋に、熊のドッドソンがひょっこりやってきました。
「そこ、通りたいんですけど……」
「うるせえ! あたしゃ眠いんだ、どいつもこいつも、回り道すりゃいいんだ!」
あんまり大きな声で言うので、熊のドッドソンはおびえて体を震わせて、逃げていってしまいました。
するとその時、上から巨大な石がドーンと降ってきたのです。
ギラリ、ヒューリパイの目は光って、素早く立ち上がりました。彼女はその石を受け取るやいなや、もの凄い力で、「でぇーい」と投げ返しました。
「あ、あいたっ!」
誰かの声がして、ドスンと何かが落ちる音が聞こえました。石橋の向こうの、草原の方から聞こえてきたようです。ヒューリパイが驚いて草原の方に見に行くと、そこには何やらネギのように細っこいきゃしゃな男が腰をさすって座っておりました。
「ひどいじゃないか。石を投げ返すなんて。当たったぞ」
「知らないね、あんた、空から落ちてきたのかい。まぬけだね」
ヒューリパイはフンと鼻をならしてさっさと行こうとすると、ネギ男は言いました。
「さっきの石はなんという石だか知っているか」
「知らないね」
「『思いやり』という石だよ。あんたに渡そうと思ってな」
「いらないね。思いやりなんか必要ないね」
「おや、そうかね。だったら相撲で勝負しないか。あんたが負けたら、道で寝るのをやめて、さっさと帰るんだ」
ネギ男は言いました。ヒューリパイは、「冗談じゃない」とブツブツ言っていましたが、急に、ネギ男に掴みかかりました。
「さあ、勝負だ!」
「汚い奴だ!」
ネギ男は押されながらブーブー叫んでいます。草原で相撲の勝負が始まったのです。
「おっとどっこい」
「よっしゃきた、よっしゃきた」
「ほっ、よっ、ほっ」
二人の位置は入れ替わったり、攻守が逆転したりしました。
「でぇい!」
ヒューリパイが力を込めましたが、ネギ男はくるりと回って、逆にヒューリパイを投げ飛ばしました。
「ほっ!」
投げ飛ばされたヒューリパイはそのまま、足から上手く着地しました。ネギ男は、「何と!」と言って驚いていました。しかし、ヒューリパイは草に足がからまって、倒れ込みました。
「あいたた、いたいよう、いたいよう」
ヒューリパイは足をさすって泣き出しました。するとネギ男は心配そうに駆け寄りました。しかし、これはヒューリパイの罠だったのです。
「すきあり!」
ヒューリパイはまたもネギ男に掴みかかりました。それは一瞬でした。ネギ男は上手く体を捻って、またもヒューリパイをスポポーンと投げ飛ばしたのです。
ヒューリパイは、体を地面に強く打ちました。
「ち、ちっきしょー! 覚えてやがれ!」
ヒューリパイが振り向いて、ヨロヨロと歩き、石橋を渡ろうとした時──。
バキバキバキン!
何と! 石橋が崩れたのです。
ヒューリパイは川に落ち、流されていきます。ネギ男は急いで、川の中に入って泳ぎ、ヒューリパイを何とか助けました。
石橋は古くて、土台がもろくなっていたのです。
「ど、どうしてあたしなんかを助けるんだよ」
足を怪我したヒューリパイは驚いて、ネギ男に聞きました。するとネギ男は言いました。
「お前さんを助けたかったわけじゃない。お前さんの心を助けたかったのさ」
ヒューリパイはわんわん泣きました。周囲で見ていた人たちも、それを見て拍手したのです。
それから少し経って、ヒューリパイは石橋で踊りを練習するのをやめました。そして、周囲の人に笑顔で挨拶する、優しい女の子になりましたとさ。
ヒューリパイとネギ男 武志 @take10902
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