第26話 更科の作戦と、速水の作戦
一時間目と二時間目の間の十分休憩の時間。
更科は廊下で雑賀を待ち伏せしていた。手にはエリのノート。
『あいつ、遅っせーな。体育、間に合わなくなるじゃねーか』
更科は腕時計の秒針を睨んでいた。
「おはよー」
雑賀が教科書を胸の前で抱えて歩いてきた。
「雑賀、いいところにきた。これさ、3Cに置いてあったんだけど、エリのノートでさ。雑賀、これ渡しに行ってくれない?」
更科は小さくほくそ笑む。
「いいけど、なんで俺? 自分で行けば?」
「行きたいんだけどさ、俺、先生に呼ばれちゃってて」
あらかじめつくっておいた理由も完璧だった。
「わかった。次、一年のフロアどうせ通るし。渡しとくよ。お前も早く来いよ」
「おう!」
更科は秘密のミッションを終えたような気分だった。雑賀の後姿を見送りながら、小さくガッツポーズをした。
そんな更科の後ろ姿を沢口は見ていた。
『更科くん、またなにか雑賀くんに悪戯したのね』
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一時間目が終わってから、速水はエリのクラスへ直行した。
今朝、先生から受け取った入部届けをエリにも見せておこうと思ったのだ。
『我ながら、仕事が早いな』
速水は自分の行動力に感心しつつ、自分のしていることに自虐的な気持ちになった。
「おーい。エリー」
あえて、クラスの人たちに聞こえるようにエリを呼び出した。
「いまいくねー」
エリは今日も笑顔が似合う人だ。速水は一瞬、うっとりしてしまったが、気を引き締めて待つ。
エリと話していた女子が速水の名を口にしていたような気がしたが、もしそうならば、速水の計算のうちだ。速水は、女子は女子の内で恋が発展していくことを知っている。
恋愛において、最も重要なことは積極的なアプローチであり、その次に狙っている子の女友達へのアピールだ。速水はこの二つを心に留意している。
「おはよう、エリ。実は今朝、入部届をもらったんだ」
「早くない?」
エリが少し引いている。
だが、これでいいと速水は確信している。
「あはは。善は急げってね」
「さすがすぎて、何もいえないよ」
「もし部長さんから許可がでれば、今日中の出そうと思う」
「たぶん、出せると思うよ!」
「それは良かった!」
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