第24話 更科の悪戯

 木曜日の一時間目。

 更科は廊下の『特別教室3C』と書かれたプレートをぼんやり見つめていた。

 特別教室と名づけられているが、教室自体は、他のそれと全く変わらないものだ。しいていうのなら、特別教室は東校舎にあるため、木造校舎であり、昔ながらの雰囲気があるということくらいだった。


 二年生になると、選択科目が増えるため、同じクラスの人でも授業が異なる場合が多々ある。だが、逆に言えば、他クラスの人とも授業が同じになるため、更科は選択授業の時間が好きだった。

 選択授業は、この特別教室で行われるため、更科はなんとなく特別な気分になるのだった。


『はー。今日の山田Tも補足多すぎだろ。その補足やるんだったらさっさと進めばいいのに』

 更科にとって山田教諭の数学の授業は、難易度が低く、退屈なものだった。二年生は、一年生のときの成績から、数学と英語に関しては、実践クラスと標準クラスに分けられる。更科は一年生の学年末テストの成績があまり振るわなかったため、この山田教諭の標準クラスに割り振られてしまったのだ。


『ちっ。雑賀は実践かー。実践はたしか飯野Tだったよな。俺もそっちがよかったわ』

 雑賀は成績優秀であるため、数学英語、共に実践クラスである。

 更科はノートを執ること放棄し、机の中に手を突っ込んでみた。


『お? 何か入ってるぞ』

 取り出すとそれは、水色の大学ノートだった。ノートの右上には記名されていた。

『これ、エリのじゃん!』

 ノートの持ち主はエリだった。昨日、補修講座に出席した際、エリは机の中にノートを置いてかえってしまったのだ。


『エリもドヂだなあ。どれどれ、お兄さんが中身をチェックしてあげよう!』

 ノートを開くと、そこには二次関数の問題が解かれていた。

『これ昨日の日付だ。一年生っていま二次関数やってんの? 遅っそ。てか、ケッコー丸ついてんじゃん。なんだ、エリ意外とできんじゃん。雑賀に教わらなくて良くね? あ、そっか。雑賀と話すためか。健気だなあ、エリも。ホント、あいつらくっつけばいいのに。あー、ムカつく。雑賀とか早く滅びないかなー』

 

 「死ね」という言葉は使いたくないが、それに近い、かるく死んでほしいときには、「滅びろ」と言うことが、雑賀と更科の間で流行っている。

 これは、汚い言葉をなるべく使いたくない雑賀が考案した言い方だ。更科は「滅びろ」をかなり気に入っている。


『そうだ! 何かイタズラしておかないとね!』

 昨日の件についてはすでに忘却の彼方である更科は、せっせと新たな悪戯を考える。

『付箋もってたっけなー。お、あったあった。よし! サイコーだ』


「おい、更科。内職をするな」

 山田Tこと山田教諭が更科を注意した。更科は悪びれることもなく「さーせーん」と謝罪した。



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