第18話 エリと速水、雑賀、小林の放課後
夕方五時、東光駅のロータリー中央にある大きなイチョウの樹には、なん百羽というすずめが停まっていた。
すずめも二三羽ならば、鳥のさえずりも風流に聞こえるが、あれだけ多いとなると、さえずりどころの騒ぎではない。騒音である。
「何? もう一回言って?」
エリは速水の声がすずめたちの鳴き声で聞こえなかった。
「エリはもうこのまま帰るの?」
速水はエリに顔を近づけて言った。
「ううん。塾に行く前にここらへんで何か食べるよ」
「なら、ジョイキチ行かない?」
速水の指差す方にはファストフード店の『ジョイキッチン』がある。東光学院の生徒には『ジョイキチ』の愛称で親しまれている。
「いいね、入ろ入ろ」
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雑賀は予備校の教室についてから、レジ袋の中身を取り出した。
黄色を基調とした、派手なパッケージは一度見たらなかなか忘れられない。紙パックの中央には大きく『Rooibos Tea』と印字されている。
雑賀はエリがルイボスティー好きと聞いてから、自身も時折飲むようになった。
授業前のブレイクタイム。ストローから吸い上げられたルイボスティーが、乾いた喉に潤いと幸福感をもたらす。
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小林真紀はハギレが大量に入った、大きい巾着袋を腕に抱えていた。
天文部と兼部している手芸部で使おうと、家にあったハギレを学校に置いていたが、さすがに使い切れないため、持って帰ることにしたのだ。
校門から駅まで、普段の小林なら十五分もかからないが、今日は二十分ほどかかってしまった。
乗る予定だった電車にはもう間に合わないので、近くの店で少し休憩することにした。
東光生、行きつけの店『ジョイチキ』の自動ドアが開くと、店内のところどころに小林と同じ制服を着た人を見つけた。ぐるりと店内を見渡して、知り合いがいないが探したが、今日は誰もいないようだった。
「ん?」
小林は窓際の奥の席に注目した。
亜麻色のミディアムヘアに、小林がよく知らないキャラクターのぬいぐるみのついたスクールバッグ。向かいには、短髪でよく日焼けした肌の男子。
「うっそお!」思わず、小林はそこそこ大きい声がでてしまった。
『エリに彼氏がいたなんて! かほに報告しなきゃ!』
レジでハンバーガーとコーラを注文し、トレーに乗ったそれらを受け取ると、小林はエリの死角になる位置に座った。小林は探偵になった気分で、エリと青年Xを観察していた。
ハンバーガーを食べ終わると、リュックから携帯を取り出し、沢口にメールした。
『ヤバい! エリに彼氏がいる! ジョイキチでかっこいい子とごはん食べてる』
送信。
小林はえもいわれぬ達成感に満ちていた。
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