あなたを救う詩を訴いたいが私にはそれが出来ない

田土マア

一、偶然 -私は眠い

 夜、ふと目が覚めた。

今、何時なのかを携帯を見て確認する。


24時45分…。


 いつもはあまり気にしていない通知欄になぜか違和感を覚えた。

『ニコっちライブ』というアプリの通知だった。

ニコっちライブは世界中だれでも簡単にネットライブをすることが出来るアプリで、たまに見たりしている。

 そして気に入った配信主がいたら通知登録することができて配信が始まると通知が届く。


 そこに表示されていた通知には

『ソーダ@はっぱさんがライブを始めました!-雑談します。』


――誰だっけ。


 前に通知登録していた人なのか、記憶にない。

名前を変えて配信した人なのか、とも思ったけれどやっぱり思い出せない。いつもなら今はいかなくてもいいや。と思うけれど、今日は気になって仕方なかったので通知に飛んでみる。


 そこにはソーダという人の声が響いていた。

その声を少し聞いて疑問が確信へと変わった。


――やっぱりこの人を知らない…。


 でも相手からは認知されているかもしれない。

『初見…ですよね?』コメントを打ってみた。すると

「あっ!初見さんいらっしゃい!…多分初見だと思いますよー?」

相手から見ても俺は初めて見るらしい。

じゃあなんで通知が来たんだろうか。

『ですよね。通知がいきなり来たんですけど…』

聞きにくい質問をする人のように申し訳なさそうなコメントをした。

「えっ!?本当ですか??それは不思議だなー。もしかしたら運命かもですね。」

笑いながらそう答えてくれた。


「レートさんはプロフィール見る限り若そうですけど、何歳ですか?」

特別隠す理由もなかったから素直に

『17です』と返すと

「17!?じゃあ同い年だね!あれ?高校三年生ですか?」

『次高二です』

「じゃあ僕の一つ下だ!今まで配信してて僕より下の子にあったことない~。ならさんよりくんのほうがいっか!!あれ?アイコンで勝手に男の子だと思ってたけど、女の子だったらちゃんだね」

なんか嬉しそうに話し始めた。

『男です』

男で合っていることを伝えた。

興味を持たれたのかいろいろと聞かれた。

趣味はなんだとか、どんなところに住んでいるのか。

とか…。

 この人は無邪気にはしゃぐ幼稚園児のように思えた。




 この人は多分面白い人だ。この人は関わってはいけない。動物的な本能としてそう感じることは多分僕だけじゃなくてみんながあることだと僕は思う。

 そして今、僕はその本能的な勘を感じた。

画面に映ったコメントがそう感じさせる。

「レート」と表示された名前とアイコン、送られてくるコメントに謎な気持ちの高ぶりを感じた。


 顔も知らない誰か。

どうしてここまでワクワクするのだろうか。

どう考えてもその答えには辿り着かない。

でも間違いなくこの子は面白い。僕にそう思わせた。


 最近の趣味は?と聞かれたら今の僕は「ネット配信」と答えるだろう。

知らない地域の人とコメントを通して関わると自分の世界が広がっていく気がしてなんか好きだった。


 現世うつしよで生きている。それとはまた違う世界で広がるコミュニティや知識に楽しいと思うようになり、気が付けば毎日夜になると携帯の画面に向かって一人で話すようになっていた。


 少し前から関わりのあるリスナーさんに加え、今日新しくきた「レートくん」

いつしか関わりは広くなっていった。


 きっとそのどれも偶然が重なって繋がっていくんだ。学校のような決まった人数、ほぼ同じ年の集まりの中でどう人間関係を築いていくかではなく、世代、文化…。すべての壁がない世界で少しでも自分らが求めた人を探す。


 それは必然のようにみえても偶然なのだとだと思う。

配信が終わった部屋で流れたコメントを読み返しながら偶然の奇跡を感じている。

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