敵
虫が死ぬほど苦手だ。
幼い頃はアリやコオロギを捕まえて飼ったり、カブトムシの幼虫も平気で手のひらに乗せたりしていたが、成長するにつれて見るのも嫌なくらい恐怖を感じるようになった。
困ったことに彼らは神出鬼没だ。
なるべく窓の開閉を素早くしたり、洗濯物を入れる時は念入りにはたいたりと自分なりに気を付けているが、いつどこから現れるか分からない。
高校二年生、少し背伸びしてワイシャツのボタンを一つ多く開けてみた日の帰り道。
自転車に乗り、いつもより胸元に風を感じながら坂道を下っていたら、バチッという音と共に何かが顔から首あたりにぶつかったのを感じた。
下を向くと、ワイシャツのV字のちょうどへこんだ部分に、百円玉くらいの見た事もないような黒い円形の虫がブローチのようにへばりついていた。
その後の記憶は、自転車から転げ落ちそうになりながら無我夢中で胸元をはたいた事と、全速力で自転車をこいで家に帰った事しか覚えていない。
またある日、台所に立っていた時の事。
小松菜を袋から取り出し切ろうとしたら、まな板の上の方に全長二センチくらいの黒いクネクネとした虫がうごめいていた。
全身の血の気が引き、危うく包丁を落としそうになった。まさか奴が野菜に紛れ込んでいる事もあるとは知らず、料理初心者の当時の私にはあまりにも衝撃が大きすぎた。
それ以来、葉物を買った時はいつもヒヤヒヤしながら調理している。
そして先週。
在宅勤務中、上からポトッと何かが落ちてきてパソコンの画面に着地した。
見たら全長一センチ程度のクモだった。
さほど大きなサイズではないものの、まさか上から降って来るとは思わず、半泣きになりながら隣の部屋で仕事中の夫を呼び出して片付けてもらった。
虫と遭遇せず生きる事は不可能だが、せめてこちらを驚かさない登場の仕方をしてほしいと切実に思う。
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