失踪

 昔、リビングのカーペットに座り込んで靴下を脱ごうとしていた時のこと。

 なかなか脱げず強引に引っ張ったら、勢い余って片方の靴下がすごい勢いで弾け飛んでしまった。

 慌てて辺りを見回したけどどこにもない。こんなに一瞬でなくなるはずないし、履いていたのは比較的目立つ赤い靴下。大して広くもない部屋に赤い靴下が落ちていたらすぐ目につくはずだけど、炬燵の中や部屋の隅々まで探しても一向に見つからない。

 母も探してくれたけどやはりどこにもない。


 結局私と母は探すことを諦め、私の靴下は謎の失踪を遂げた。





 あれから半年程経ったある日、靴下を収納している引き出しの奥から無くなった赤い靴下の片割れが現れた。

 いつか片割れが見つかることを信じてずっと保管してきた靴下。でも片割れは相変わらず行方不明のままだ。

 片足だけでは使うこともできないので、私は思い切って残っている片割れを破棄することにした。



 母「あら、捨てちゃうの?」


 私「うん。いくら探しても見つからないし、片方だけあっても履けないから」


 母「じゃあ、今日はゴミ捨ての日だからそこのゴミ袋に入れておいて」



 胸を痛めながらゴミ袋に靴下の片割れを入れた。






 翌日、リビングから母の大声が聞こえた。



 母「響子、来て!」



 母が手にしていたのは、リビングの壁に掛けていた空っぽのホーロー鉢。

 その鉢の底に、ずっと行方不明だったあの赤い靴下が丸まっていたのだ。


 鉢が掛かっていたのは私の目線と同じくらいの高さのところだ。私が座り込んでいた場所からだと直線距離でもニメートル以上離れている。

 落ちていると思い込んで床ばかり探していたけど、まさかニメートル以上も飛んで壁に掛かっている鉢の中に収まっているなんて思いもしなかった。



 私「あと一日早く見つかっていたら片方を捨てずに済んだのにー!」



 せっかく半年ぶりの再会を果たしたのに、結局その後一度も履く事なくこちらもゴミ箱行きとなってしまったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る