窓の外の影

 祐樹は家に帰ってから自分の部屋に鍵をかけて閉じこもり、布団を頭まで被っている。汗がこぼれるも、怖くて布団から出られない。

 両親は東京に出張に出ていて今晩は祐樹は家に一人だけだった。

 いつしか眠ってしまったのか、気が付いたら外は暗くなっていた。

 喉の渇きに耐え切れなくなり、部屋から出て台所に向かう。時計を見上げると夜中の3時だった。

「あれ、なんだったんだろう」

 ふ、と祐樹の視線が窓の外を捉えた。

「っ!」

 声にならない声が祐樹の口から洩れる。

 窓の外では、白い影がいくつもうごめいていた。どの影も子供くらいの大きさで、音を立てることなく、何かを探すようにゆっくりと動いていた。

 祐樹は慌てて部屋の電気を消すと、ゆっくりと後ずさりする。

 どことなく、昼間の石像と窓の外の影は似ているような気がした。

 音を立てないように階段を上り、自分の部屋で布団を被る。今にも玄関から影が入ってくるような気がして、体の震えが止まらない。

「うわっ!」

 不意にポケットに入れていたスマホが振動した。思わず声を出してしまい、慌てて口を押える。

 哲也から着信が入っていた。

「祐樹? 大丈夫か?」

 哲也は車に乗りながら電話しているのか、エンジンの音が聞こえる。

「あれ、何?」

 祐樹は小さな声で返す。

「哲也、変わって」電話口の向こうで女性の声がした。「私、夏海。大丈夫?」

「夏海姉ちゃん? あれ、何?」

「祐樹君、今そっち行くから。もうちょっと待ってて。そしたら説明するから」

 哲也の姉の夏海の声を聞いたら、少し安心したのか、涙が溢れてきた。

「うん、後どれくらい?」

「あと10分くらいだから。着いたらすぐに私の車に乗れるように、準備だけしておいて。あ、絶対に外に出ないでね。私が行くまで鍵を開けるのもだめだから」

「分かったぁ」

 祐樹が玄関先で靴を履いて座っていると、外からエンジンの高らかな音が聞こえてきた。その音は徐々に近づいてくる。

「祐樹!」エンジンの音を背景に哲也の声が飛び込んできた。「鍵! 開けろ!」

 祐樹は弾かれるように立ち上がり、鍵に手をかけた。指が震え、なかなか鍵を開けることができない。

「早く! 開けろ! あいつらがそこにいるんだって!」

 ドアが何度も叩かれる。

 なんとか鍵を開けると、引きちぎるようにドアが外に引っ張られた。

「祐樹、来い!」

 哲也が祐樹を引っ張る。ドアのすぐ前に止められた黄色い軽自動車から、夏海が手を振っていた。その顔は焦りに満ちている。

 ふと軽自動車の向こう側を見ると、白い影が急速に集まってきていた。祐樹の足がすくむ。

「早く来いって!」

 哲也に引っ張られ、祐樹は車の中に飛び込むように入る。

 夏海がアクセルを踏み込み、車は急発進した。影の間を縫うように走りながら家から遠ざかる。祐樹は慣性に振り回されながら、窓の外を指さした。

「あれ、何?」

 夏海は真っ直ぐに前を見ながら、口を開いた。

「あれはムジナ。過去に2回、この島から人を追い出した存在」

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