誰が僕の大切な本まで異世界に飛ばせと言った!! ~女神にアホほど低スペックで転生させられたけど、魔王を倒してこいとかいう以前にまず謝ることがあると思う~

Aiinegruth

第1話 おい本返せよお前!!

「ですからね、」

 薄暗い空間で、青い髪の女神はこう切り出した。

「あなたの蔵書も含めて何冊かの稀購本を別世界に送っちゃって、」

 ミスっちゃいました。みたいな、お茶目な笑顔。

「そしたら、年季のせいか、びっくりするくらい強力な魔導書に変性へんせいしまして、」

 次に、トホホ、といいながら、涙を拭って見せる。

「さらに、魔王軍がそれを手にして、あら大変」

 最後に、パン、と手を叩き、わぁおと驚いたような表情。

 女神はふわふわと降りてきて、喋りながら、目の前に着地、

「と、いうわけで、西町興太郎さん。研究帰りの路上で信号機を無視したトラックに轢かれて事故死したあなたは、いまから転生して魔導書を集め、魔王を打とーー」

「僕の本返せやゴラァアアアアア!!」

「ぎゃああああああああ!?」

 した瞬間、僕の怒号が綺麗な顔面に炸裂した。

 驚いて派手に吹っ飛び、正面の暗闇の煙にぼふっと消える女神。

 しかし、その青髪は直ぐにまた目の前に現れた。

 さっきまでの元気は何処へ行ったのか、しなびて、涙目で、片手で力なく白旗を振っている。白旗には「暴力反対」の文字が刻まれていて、揺れる度にチロリンという音と共に自己主張激しく七色に輝いている。

「魔王を、魔王を倒してくれません?」

「だから僕の本は?」

「べ、別世界に」

「神なんだろうが何とかして回収してこい」

「それが出来たらこんな男に頼んどらんわーー! ってかこの女神に対して偉そう! 何なの? あなたは死んで、ここにいるの! 地獄って知ってる? 落ちたいの?」

「落ちるのか?」

「あなたはまぁ生前善良だったんで落ちませんけどぉ……」

「で、何だ。その別世界とやらに行って、僕の本を取ってくれば良いんだな」

「魔王、魔王も! お願いします!……うっかり世界滅ぼしたって周りに知られたら私の神格プライドに関わるんで!」

「馬鹿か」

「あなたが頑張らないと本返ってきませんけども」

「……僕が勇者だ」

「大変よろしいです!」

 暗闇に光が差し込み、視界が白く染まる。

 そういうわけで、僕の夢物語にも似た旅が始まった。

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