プレス

瀬古 礼

1. プレス

「……ここ、どこだ? 」


 俺は気が付くと一筋の光さえも差さない真っ暗な空間でただ一人、ポツンとうつぶせに倒れていた。何故自分が今こんな場所にいるのか、見当もつかない。何も、覚えていない。


「っっっ?! アアアアアッッッッッ!! 」


 唐突に、何かにじっくりと時間をかけて圧し潰されていくかのような、そんな鈍い激痛が身体を走った。これまでの人生でたった一度たりとも経験したこともないような、そんなえも言えぬ苦痛が俺の全神経を支配する。


 痛い、痛い、痛い。もう何も考えられない……。


 自分の骨が徐々にひび割れ、軋む音が聴こえる。今、明らかに数本の肋骨が折れて肺に刺さった。生まれて初めて実感した死への恐怖を孕みながらも、俺の意識は尚消えることなく、自身の身体が潰れていく様を克明に感じ取っていく。そのあまりの痛さに遂には走馬灯まで見始めた俺の脳裏には、ふとこんな言葉がよぎった。


――――こんなことなら、もっと頑張ってみればよかった。


 ん? これは一体どういう……。



             ⦅*⦆



「……ん、おじさん、何してるの? 」


 誰かの声が聴こえて俺は目を覚ました。びっくりした、どれだけの間かはよく分からないが気を失ってしまっていたようである。急いで確認してみると、先ほど何かに圧し潰されたかのように感じた自分の身体には特に何もなく無事。もしや先ほどの出来事は全部夢だったのではないだろうかという微かな希望を一瞬抱いたが、今俺のいる場所はさっきまでいた空間と全く同じ場所のように見受けられる。全部が全部夢だったとはあながち言い切れない、俺にはそんな気がした。


「おじさん、おじさんってば」


 そうだ、誰かの声で目が覚めたんだった! 辺りを見渡すと、すぐ目の前に小学生くらいの背格好の女の子が一人立っていた。ここが暗すぎるためあまりはっきりとは見えないのだが、その子がボロ雑巾のように薄汚れたワンピースを着ているのが分かる。靴は何も履いておらず裸足だし、髪もぼさぼさだ。見たこともない子だな、この子は一体どこから来たのだろう。


 ……ていうか、おい、ちょっと待て。おじさん? 誰のことだ? もしかしてこの近くに誰かやばい奴がいるのか? 俺がさっき感じた痛みや圧迫感も、もしかするとそいつの仕業なのかも……。気になって辺りを注意深く見渡してみたが、周りには俺と彼女以外には誰も見えなかった。


「ねえ、キョロキョロしてどうしたの、おじさん」


 えっ、まさかとは思ったけど……。俺のことかよ、このガキめ。少し大人気ないかなとは思ったが、ちょっとだけにらんでやった。


「俺まだ、21歳なんだけどなあ……。おじさんに、見えるかなあ? 」


「おじさん誰? ここで何してるの? 」


 おいおい、無視かよ。全く、こんな子供にまで無視されるようになってしまったようじゃあ俺もおしまいだな。ため息を漏らしながらも、俺は目の前の女の子の質問に答えてあげることにした。


「いやあ、実は俺にもよく分からないんだ。目が覚めたらこんなところにいてさあ。君はどうしてここにいるの? ママやパパは? 一緒じゃないの? 」


「ママはね、殺されちゃった……。パパもね、殺されちゃったんだよ……」


 おっと、なんとショッキングな……。気まずいような、申し訳ないような、そんな気持ちになった。そうか、両親がいなくなって天涯孤独の身になってしまったからそんなに変な格好をしているんだな、俺がそう一人で納得していると、次の瞬間、彼女はにわかには信じがたい一言を発した。
















「私もね、同じヤツに殺されちゃったの」

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