文明の進歩
ここは山奥の研究所。その青年は若くして歴史上類を見ないほど素晴らしい発明をした。水を科学的に分解し、そのまま電気に変えることに成功したのだ。それも、少量の水からかなりの電気を作ることが出来た。
「ついにやったぞ。これは大発明だ。早速学会に発表しよう」
「それはいけません」
いつの間にか、青年の後ろに黒いスーツを着た男が立っていた。青年は驚き、思わず床に腰をつく。
「あなたは誰です。警察を呼びますよ」
「私が誰かはどうでもいいのです。ただ、その発明は人類にまだ早すぎます」
「どういうことです」
「物事には順序があるということです。適切なタイミングで、適切な進歩を遂げなければなりません。水を電気に変える技術は、二百三十年後に発見されます」
青年は動揺から言葉が見つからなかった。男は続けた。
「つまり、こういうことです。五千年前、人類は英知によって全ての知識を手に入れました。しかしそれは危険すぎることでした。一度に多くのことを知りすぎたのです。事実、五千年前に人類の九十九パーセントが滅んでしまいました」
青年は困惑の表情を浮かべることしかできない。誠実そうな男の口から発せられるその話は、少しの現実味もない内容だった。
「私は不死になる手術を受けてるので、遥か昔から生き続けています。私の仲間も同じです。人類滅亡の危機から生き延びた私たちは、三千年かけて人類の文明をどのように進めるか計画を練ってきました。そして、その計画は約二千年前に実行され、現在まで万事順調に進んでいます」
男の口調に嘘をついている感じはなかった。今まで呆然と話を聞き続けた青年は、やっと意を決し、声を発した。
「あなたの言うことは信じがたいですが、嘘をついているように見えない。しかし、あなたの話が嘘であっても、本当であっても、どっちでも同じことです。僕はこの発明を発表しますよ。環境汚染が深刻な今、人類はこの発明を必要としているのです。あなたの言う計画とやらは間違っている」
男はスーツの内ポケットから小さな装置を取り出した。
「これは記憶を消す装置です。四千年後に発明されます」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます