第22話 変態のフレンドは変態 前半

 あれから三日後。俺は久しぶりにギルドに行くと、騒がしかったホールが一瞬で静かになった。


 なんだこれ……。


 まぁ気にせずにいつも通り、冒険者ギルド内の角のイスに腰掛けて空き始めるのを待つが、一向にカウンターや掲示板付近の人達が動き出す様子がない。


「おい、お前言えよ」


「嫌だよ。誰か言えよ」


 何かそんな声が聞こえる。噂って本当怖い。


「あの、もし良ければ俺達と組んでもらえませんか?」


 そんな中、一人の男がこっちに来て声をかけてきた。


「すまんな。他の奴等と組むつもりはねぇよ」


「なら数日、俺達と一緒に付き合ってくれませんか? 場所は前回と同じで」


 そして奥の方から、ドミニオンズさんが出てきた。


「あぁ、野良としての勧誘なら問題ねぇが……。お前の所はしばらく勘弁だ。個人的に良い思い出がねぇし、仲間が嫌がるだろ? な、ベリィ?」


 静かなので普通に喋っても、声が奥の方に良く届く。そして俺と目があったベリィは直ぐに目を反らした。


「ならおっさん、今日からどっかに三日くらい適当に狩りに行こうぜ」


 そしたら十人で組んだ時の、調子のいい男が声をかけてきた。


「そうだな。具体的な予定は? それと俺は雇われる身だから、俺がいるからといって、身の丈に合わない奴等を狩らせる気なら断るぞ?」


「あー豚はもうあんまりいねぇしなぁ……。どうすっかな」


「まぁ、前例を作ると色々と面倒だからな、誘いが絶えなさそうだし。しばらくは一人かヘイと日銭稼ぎだなぁ。気が向いたらか、ギルドからので組むなら良いと思うぞ? けどな、見かけたら飯は誘ってくれよな。お前ん所の雰囲気は好きだったぜ」


「あぁ、わかったよ、んじゃしゃーねぇなぁ……」


「あれー? なんでこんなに静かなの?」


 ちょうど良くヘイもギルドに来たのか、少し間の抜けた声で言い、真っ直ぐこちらに向かってくるが、人混みがゾロゾロと開いていく。


「モーセー」


 両腕を広げ、モデルみたいな歩き方をしている。おもしろいな。


「おはよう」


「おう、おはよう」


「何これ?」


「噂の結果だろ?」


「あぁー」


 ヘイは口を開けたまま頭を縦に振り、俺の隣に座った。


「で、詳細を手短に」


「パーティーに誘われたけど、前例があると多分そういうのが絶えないから、ギルドからの指名で組まされるなら了承する」


「短く言うと?」


「噂の人だからちょっと誘ってみようぜー」


「そりゃ面倒くさい。で、ちょっと真面目な話しがある。ここから席を外そうか」


「……あぁ」


 ヘイがまじめな顔と口調になったので、こっちも真面目に答えて立ち上がる。


「俺の知ってる店で良いか?」


「どこでもいい」


 ヘイから返事をもらい、ギルドから出ようとするとやっぱり人混みが割れていく。うん。なんか気持ちいい。



「で、なんなんだ?」


 俺はグリチネとよく利用している、上級区近くのいつも使用しているレストランのテラスに座り、今日のデザートとお茶を頼む。ヘイはトライフルだった。


「バイクみたいなかっこいい名前だな……」


「見て驚くなよ。で、本題に入ろう。俺のフレンドがログインした。こっちに呼んで良いか?」


「そりゃかまわないが……」


「まぁ、否定しても呼ぶけどな。けどそいつはネタプレイヤーなんだよ……」


 ヘイは少し頭を押さえ嘆くように言った。何が問題なんだ?


「プレイヤーネームが(株)かっこかぶ有限会社大飯製紙工業。日本人にしかわからない下品ネタだ」


「聞いただけで頭が痛い。ってか見かけた事あるぞそいつ。対戦した時敵なのに、超ノリノリで意気投合したな。バターになるくらい、二人でその場で回ってたらこちら側の味方に殺されてたけど」


 あと、株式会社なのか有限会社なのかはっきりしてくれ……。


「多分そいつだ」


 ヘイは微妙な表情をしている。多分ヘイの前でも似た様な事をしていたんだろう。


「どんだけ酷いんだ?」


 とりあえずプレイスタイルが気になったので、一応聞いてみた。


「ネタプレイが九割、けど腕前は文句が出ない程度。リベレーター二丁拳銃、水平二連ガバメント二丁拳銃、VP70っていう自動拳銃のロングマガジンフルオート」


「聞いてるだけで頭痛い……。リベレーターってアレだろ? リアルだと一発撃つと木の棒使って排莢してまた弾を詰める、ほぼ一発限りの奴。ストーリーだと隠し武器の」


「そうだ。使ったらリロードしないで投げ捨てて二丁目を出す奴」


「そうだったな……。弾数イコール銃の数だったな……」


 ゲームのストーリー内のとある部屋のクローゼットに隠されてて、普段なら見逃しても仕方ない場所にある、スタッフに熱狂的なファンがいるから毎回どこかには出てくるんだよなぁ。使い勝手は最悪だけど。


「例の水平二連ガバメントは、これで四丁拳銃だとか言うし、VP70はその辺の短機関銃より連射力の早い自動拳銃で、三点バーストで撃っても、反動が強すぎてまず当たらない事で有名。けどそいつはフルオートで下半身を狙って撃って、撃ちきる頃には腕は肩ぐらいまで上がる馬鹿戦法。正直そこまで近づける腕があるなら、ナイフ振った方が強いんだけどねー」


 リベレーターってバレルにライフリングがないから、真っ直ぐ飛ばないんだよな? 有効射程十メートル程度だったような? 本当によく近づけるわ……。だからゲーム中にジグザグで走って近づいてきたんだよなー。


 ってかライフリングがないから火縄銃と一緒だ。むしろバレルが長い分そっちの方が当たるわ。


 ちなみにヘイの時と同じく、時間的に数日前にチームを組んだとか言い、お互いに情報交換をし、俺の名前を出してどうにかしてルチルに呼んだらしい。



「お待たせしました。トライフルと日替わりデザートです」


 ウエイターが運んできたデザートはパフェに似た物だった。俺のがシフォンケーキだから、あっちがトライフルか!


 カスタードクリームとフルーツ、スポンジの層で美味そうだ。


「残り物、有り合わせで作ったデザートって意味だから、いろいろなお菓子の余り物で作れる。余ったカスタード、四角に焼いて丸に切り取った残りのパサパサの残りのスポンジ、そしてフルーツ。こうなってると余り物って言うのは失礼だよな。けどこれはトライフル用に作られてるからある意味偽物だ。けどスポンジを湿らせるのに、ワインを使ったりラム酒だったり、子供にはフルーツジュースも使われた。相手によって変えられるおもてなし用のデザート。そして大人な俺は何かの蒸留酒だな。甘さも控えめで全てがちょうど良い」


 ヘイは一口食べて微笑んでいる。俺も今度頼もう。いや、今頼もう。


「すみません。俺にもトライフルを」


 頼んだら頼んだでヘイはニヤニヤしていたし、ウエイターもニコニコしていた。そしてお茶を飲みに来ていた奥様方は、メニューを閉じてトライフルを頼んでいた。


 こういう場でうんちくを語るのもかっこいいな。


「で、今はどこにいるんだ?」


「王都に行ってるうちに呼んでおいた。直に来るぞ」


 そう言って、端末にMAPを表示させてこっちに見せてきた。


「真後ろじゃねぇかよ!」


 俺が振り向くと、ジャーヘッドで蛍光オレンジのツナギを着た、二十代前半の目が座ってる男が立っていた。第一印象は犯罪を犯した退役軍人っぽい。

 腕と足には強力な磁力で枷代わりになる、ストーリーモードで一回は付ける奴だ。凄く目立つな。


「初めまして、自分はXXXXオオイセイシです。自分にもこれと同じ物を」


 挨拶したついでに、通りかかったウエイターに注文をしていた。


「おい、イントネーションやばくねぇか? 絶対量が多い方に聞こえたぞ」


「心が汚れてるだけですよ。ちゃんと紙を作ってますよ」


「ティシューとか造ってそうだよね」


「あーあ、もうスピナシアさんにはオオイセイシにしか聞こえなくなっちゃいましたよ?」


 変態のフレンドは変態でした……。


「スピナでいいぞ」



「で、これからどうするんだ?」


 俺は大飯さんに聞いてみた。


「安定した職業に就きたいですね。どこか伝手とかありませんか?」


「ねぇな……。いままで銃を使って稼いできたからなぁ……」


「そうですか……。なら仕方ない、知り合いもいますしここをベースにして、何か職探ししますね」


 見た目が怖いのに、丁寧な言葉使いのせいでなんか妙に怖い。落ち着いたマフィアかみたいだ。


「これ美味しいですね。あ、フレンド登録いいですか?」


 雑談中に大飯さんは、トライフルを食べながら思い出したかのように言ってきた。


「いいですよ。今名前の綴りを教えますね」


「地の方が出てますよ? こっちのいつも通りで良いです」


 そういいながら端末をいじり、俺が名前のスペルを言うとソレを入力している。ゲーム中ならフレンド申請を送るだけなんだが、ソレができないからしかたない。


「にしても……。まさかあのジャガノさんだったとは。掲示板で一時期有名でしたよね?」


「そっちほどでもねぇけどな……」


 ネットの掲示板で、ネタプレイヤー一覧や要注意人物一覧で上位にいたらしいしな。けど成績はそれなりだから叩かれてないと。


 けど毎回おもしろい名前を見かけたら~ってとあるサイトで毎回見かける。



「こんな昼間っから男三人で何してやがる」


 皆で雑談をしながら甘い物を食べていたら、ウェスが参加してきた。


「監視していた部下の一人からの報告で、おまえ達に親しそうなのが近づいたって事で来てみれば、むさくるしい男三人で甘い物を食いやがって」


「好きなんだから良いだろ。別に甘い物食っててもよ」


「どちら様でしょうか?」


 大飯さんは、ウェスの方を見ずにこちらに聞いてきた。当人に聞いてくれ。


「こちらはウェスさん。この街のもの凄いお偉いさんの広い意味での部下。色々と裏で動いてて俺達の監視役。そしてこっちが大飯。俺の知り合いでスピナともある意味初めて。今自己紹介が終わってくつろいでたところ」


 そしてヘイが説明をした。


「大飯と言います。以後お見知りおきを」


 ヘイが説明し終わると大飯さんは立ち上がり、丁寧に頭を下げて手を前に出した。


「お、おう。ウェスだ」


 ウェスは戸惑いながら握手をした。俺達イコール野蛮だから意外だったんだろうな……。見た目もそうだし。けど頭を下げる文化はないはずだが……。


 こっちだと屈服とか服従みたいな、そんな意味合いが強いはずだ。


「ちなみに職の斡旋所とか知りませんかね?」


 いきなり言ったよ……。ってか行ったな。厚かましいのか、かなり切迫してるかだな。


「ねぇよ。お前達仲が良いなら組めよ」


「そうですか、ここの向かいのパン屋でもいいかなー」


 大飯さんはウェスから視線をはずし、店員募集がかかっているパン屋の方を見ている。魔物討伐とか嫌なのかな? けどその見た目だと絶対に嫌がられるぞ?


「おい、こいつはどんな奴なんだよ。お前達の仲間なら何かおかしいはずだろ?」


「俺達をおかしい扱いするなよ……。否定できないのが悔しいけどな」


「ある意味では変態に分類されるけどね。二つの意味で」


 そして大飯さんはトライフルを食べきり、お茶を飲んでいた。マイペース過ぎだな。


「ってかおまえ達の仲間に誘えよ。不穏分子が街の中の仕事すんな。一緒にいてくれた方が俺達は管理しやすい」


「いやー。あまり暴力沙汰とか好きではないので……」


「魔物退治はどうなんだ?」


 俺は少しだけ気になったので聞いてみた。ここまでの旅費とか色々あるだろうし。


「ソレは平気です。容赦なく殺してきました。害獣駆除みたいなものでしょう?」


「けど対人での暴力沙汰は好ましくないと……」


「別にそうでもないです」


 俺個人が雇って、グリチネの護衛とか頼みたかったが、なんか違うしなぁ。


 もう既に数人監視が付いてるし。報告受けてないけど。


 わざとらしく昼と夜の客にお得意様が二人増えたし、向かいに引っ越してきた若者夫婦とかよく目が合うし……。


「ギルドで臨時パーティー募集に飛び込む?」


「あー、ギルド職員とかもいいですね。計算や事務処理は得意だし」


「いや……。臨時パーティー……」


 ヘイは少し戸惑っているし、俺は頭が痛い。ってか職業が何となくわかる。害獣駆除って市役所とか自衛隊とかでしか聞いたことがない。そしてゲームをやれる夕方の自由時間が多いなら前者だろうな。


「とりあえず宿が決まったら、俺から会いに行くから大人しくしてろ」


「わかりました」


 ウェスは呆れて帰ってしまった。拍子抜けでもしたんだろう。


「んじゃ当面の金だが……。貸すか? そんな様子じゃ即金で金なんか手には入らないだろ?」


「そうですね、お言葉に甘えさせてもらいます」


 大飯さんは俺に頭を下げ、ついでにデザートの料金も払ってからギルドに行く事にした。

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