第13話 人も虐殺? 前編

 オーク討伐から数日。グリチネと朝食を食べていたら、ウェスが入って来た。しかもベーコンの残り一切れを、少し長めに口の中で楽しんでいる途中だった時に。


「食事中に申し訳ない、火急の件だ」


 名残惜しいがベーコンを飲み込むことにした。


「なんだ、また盗賊か?」


「そっちの方がまだマシだったな。すまないがお茶を貰おう、少し長くなるかもしれん」


 そう言って同じテーブルに着かれた。まぁ二人とも食事は終わってるから問題は少ないが。


「単刀直入と、説明込み。どっちが良い?」


「単刀直入に言ってくれ。その後で、必要なら説明もして貰う。ってかここでいいのか?」


 俺はグリチネを見て、仕事の内容を聞かれても平気なのかを聞いた。


「問題ない、そのうち噂になる。帝国と小競り合いになる。この間の村の件だが、向こうが領土を主張してきてな。村を不法占拠するなら、武力で解決する……と」


 真剣な顔をして、それだけを言ってきた。


「つまり、俺に戦争に参加しろと?」


「あぁ、ビスマスの国王に正式に使者を出してきての抗議文だ。それで国境から一番大きな街のルチルは、即時出兵しろとのお達しだ。最低限の防衛戦力を残し、国境線の詰め所の平原での戦闘になる」


 良く戦場になってそうな話っぽいのに、あそこ通ってここまで来たけど、俺が戦闘の跡に気が付かなかっただけか? それともしばらくは小競り合いがない?


「今の帝国の帝王は、国土を肥大化させるのが好きでね。こうやって嫌がらせを繰り返しては、虫が餌を食べるようにジワリジワリと国を大きくしている」


 ウェスはそう言って、お茶を飲んで一息入れている。


「……もう少し詳細をよこせ。敵の数、平均的な戦闘期間、こちらとの戦力差、過去の勝率だ」


 国や軍に所属するつもりはないが、最悪この街まで敵が来たら、どのみち俺も動く事になる。ならここは言う事を聞いて出ておかないと、後々大変な事になるしな。戦死者とかで。


「今回は小さな村の取り合いだからな、過去の戦争から見ても多くて二万、戦闘期間はお互いの損耗率になるから不明だ。戦力差だが、なんとしてでも勝ちたいから、周辺の貴族からなるべく多くの兵士を出せとお達しだ。たぶん勝ちに行くから最低で三万は行くだろう。過去の勝率だが、一応七割だ」


「数字だけ聞けば勝てそうだが……。一応国土差と人口も教えてくれ」


「変に学がないのに、変なところだけは気にするんだな。帝国が十ならこちらは四程度、人口は知らん」


 ウェスは冷静に答えてくれた。結構この国も大きいな。帝国が小さいのか?


「やり口的に嫌がらせを繰り返して、少しずつこっちの戦力と兵糧を削いで、一気に国を潰す感じか? たぶん今回は向こうの練度は低いだろうな。吸収した国の不穏分子の排除も目的だろう。領土的にも差があるから長期戦は厳しいか……。食料はどのくらい余剰に作ってるかは興味ないが、俺を参戦させて、長期戦で無駄に兵士や兵糧とかを消耗するよりはいいな。相手の指揮官は、国でも信頼できる奴として、戦略は一応得意だろうし……。本当に戦争は地獄だぜ」


 お茶を飲みながらそれらしい事を言うと、ウェスは左目をヒクつかせていた。


「農民っていうか、国民の徴兵義務はあるのか? 減りすぎると多少生産力に影響があるかもしれないし、最悪盗賊になって自国でも略奪行為もするからなぁ……。公爵様もそれはわかってると思うけど……」


 お茶をカップの中で回し、独り言のように呟きながら、少し細かい茶葉を浮かせ一気に飲み干す。


 ウェスの顔は苦虫を潰したようになっていた。過去にやっぱりあったのかな?


「そういえば冒険者ギルドはどうなんだ?」


 俺は不思議に思ったので聞いてみた。


「冒険者ギルドは魔族大陸を含めて世界規模の組織だ。だからそういうのには不干渉と決めている。ただ、個人で傭兵としての参加で金を稼ぐ奴もいるがな」


「兵士はいつあるかわからない戦争に備えて、訓練をして飯と給料をもらうからな。まぁ、怪我しても文句は出ないだろう。ただ傭兵は自己責任ってやつか」


「そうだ、だからお前をとして雇いたい。返事は今すぐにでも欲しい」


「ん? 傭兵じゃねぇのか?」


「傭兵は飯も持参だ。傭兵団に所属してないのに、飯はどうするんだ? だから兵士なんだよ」


「理解した。いいだろう。ただ、俺は好きにやらせて貰うぞ? 一人で遊撃だ。ついでに一筆もらえれば嬉しいねぇ。軍隊で命令を聞かない奴は、殺されても文句を言えない組織だからな。無能な働き者ほど殺すしかない」


 一人が命令を無視して部隊が全滅とか、そいつが引き金になって負ける事もあるからな。保険は欲しい。隠密作戦とかはないだろうけど。


「いいだろう、直ぐに用意する」


 ウェスは金貨を一枚取り出してテーブルに起き、懐から紙と筒を取り出し、筒の中からは羽ペンが出てきた。


 そして本当に一筆書き出し、メディアスの名前を書いて、赤いろうそくにマッチで火を付け、蝋を垂らして指輪を押しつけた。


「これで平気だ。ただ、ある程度の軍規は守って貰う。いいな?」


「あぁ、これでも一応周りの空気は読める」


 グリチネは口を挟まず、隣のテーブルで三本目の煙草に火をつけていた。余計な口を挟まないでくれるのは嬉しいね。性格なのか、良き理解者なのかはわからないけど。


「私物の持ち込みは、どのくらいまで容認されているんだ?」


 すべての物がある程度容認されており、現地で商人から物を買ったり、女を買ったりできるように小銭はあった方が良いと言われる。財布にある程度お金が入ってるのを確認し、特に問題なさそうなので、ボロいローブと毛布を部屋に取りに行った。


 財布の中に、大銀貨が三枚見えたし足りるだろう。



「んじゃ行ってくる。これは預かっててくれ」


 そう言って、グリチネにさっきの金貨と冒険者ギルドカードを渡した。


「季節が一巡するまで預かっててあげる。変な病気をもらってこないでよね」


「そうだな、気を付けるわ」


 別に娼婦を買うつもりはないが、そんな事を言われたらそう返すしかない。


「貸してあげる。お気に入りだからちゃんと返してね」


 グリチネはそう言ってピアスを一個外し、ハンカチと一緒に俺の目の前に置いた。


「夜中寂しくないように、下着を渡されるかと思ったぜ」


「下着の方がお好み?」


 軽くセクハラしてみたが、優しい笑顔でがっつりカウンターを貰った。


「冗談だ……」


 その一言しか言えなかったよ……。俺はヘタレだな。


 通りに出て、いつも寄っている店に行き、干し肉とドライフルーツ、エナジーバーとナッツ類の詰め合わせを選び、迷ってからこの間飲んだ強い酒も一瓶買った。


 この間みたいな事はあまり経験したくないけど、色々なストレスがその辺に転がってるかもしれないからな。



 門の外に出ると、兵士が武装して整列していた。


 大ざっぱに見て弓兵を含めた歩兵千、重装備兵三百、騎兵三百ってところか。この街結構兵力持ってたんだな……。あとから農民が参加するのか? なんだかんだで国境線から一番近い街だからな。


 輜重兵も多いし、本当に戦争は金と食料の消費が激しそうだ。ここに電力や石油系がないだけマシと思うべきか……。


 勝ったら領土も増えるし、戦争賠償ももらって、活躍した貴族の隊に多く分配したり、略奪もするのかもしれないな。


 けど自国領になる村か町を略奪ってどうなんだ? 何もない廃村や廃町に移住させるのか?


 焦土作戦で、井戸に毒とか入れられないように祈るだけか……。


 それに、兵士は人口の一から二パーセントくらいらしいから、人口五万から六万人? この街で六万人はさすがに多すぎるな……。多くて四万人くらいが関の山だ。ってか、この街にどれだけ兵士がいるんだよ……。流石国境に近い街。防衛に力を入れてるな。


 ゲーム内でも大規模戦も経験した事あるが、片方が二百五十六人だったからな。最低が十六対十六で、それが十六組。懐かしいなぁ。


 全員が指揮官の言う事聞いてただけだけどね。戦況見て的確に指示出してきたからなぁ……。歴史とか戦術を詳しいとか言ってたなー。


 貴重な壁役として、速攻でフレンド申請されたけど……。


 ってか本当に娼婦も行くんだなぁ……。まぁ、稼ぎ時だから希望者だけ行けばいいが、奴隷みたいなボロい服と首輪をした女性も見える。これに関しては考えたくもないな。そういう趣向だと思おう。


 さーてお偉いさんはっと……。あー派手だから一発でわかるわ……。


「すまん。忙しいところ悪いが、こいつに目を通してくれ」


 周りの取り巻き兵士を色々と無視しながらメモを渡すと、隣にいた奴がそれを奪い取り、死にそうなくらい青い顔で震えだし、上官にそのまま渡すとなんか最敬礼っぽい感じで背筋を伸ばし、大声で挨拶をしてきた。メディアスのサインは強いな。ウェスが書いた奴だけど。


「別に迷惑をかけるつもりはない。ダラダラと最後尾を歩かせてもらう。飯を食わせてもらえれば問題ないし、変に口を出すつもりも規律を乱すつもりもない。ただ、俺みたいな変な奴がいると頭の隅に入れておいてほしい」


「わかりました、スピナシア様!」


 メモを返してもらい、輜重兵の裏の方に歩いていく。そうすると、傭兵っぽい奴等が沢山いる。


 これが稼ぐ為に、魔物じゃなくて同族を殺す奴か。人の事言えないけどな……。


「おい、お前は一人か? なんなら俺達の傭兵団に入れてやろうか?」


 俺のように傷が多く、筋肉隆々で、いかにも最前線で体を張ってる感じの男だ。大きな怪我がないって事は、それだけ戦場の経験があるって事だろうな。


「すまんな、こう見えて雇われ兵士だ。限りなく黒に近い位置の兵士だけどな。最悪傭兵でも通じるが、規律は兵士並に守らないと駄目だし、飯も兵士と同じだ。だが傭兵となれ合うなとは言われてない。スピナだ、別に覚えなくても良いし、ギルドで知り合った奴等からはおっさんって呼ばれてる。好きに呼んでくれ」


「俺とあまり歳は変わらねぇだろ。グルダンだ、とりあえず頭張ってる。よろしくな」


「あぁ、よろしく頼む」


 とりあえず握手をし、出発まで適当に時間を潰す事にする。



「遅い……」


 何が遅いかって? 行軍速度だ。実際一日に歩ける時間も決まってるし、武器や鎧甲を装備してて、二十キロくらい体重が増えてたとしても、ここまでは遅くはない……。


 やっぱり道幅いっぱいの、十列にならんで歩いてるのが問題か。道を関係なしに隊列を組めば、もう少し早いんだろうが……。


 実際ドミニオンズさん達のパーティーでは、個人で持てる量の限界とはいかないが、装備と荷物で似たような重さにはなっていたはずだ、女性陣の荷物は軽いとして……。


 やっぱり列で歩くってのは遅いんだな。軍楽隊がいて、一定のリズムで太鼓を叩いてはいるが、それでも遅い……。騎兵隊なんか暇そうだ。


「おいスピナ。お前は軽装でいいな。軽そうだ」


「ん? あぁ。どうせ切られたら死ぬ場合もあるし、クロスボウとかだと、簡単に板金鎧なんかも貫くからな。なら軽い方がいい」


 グルダンさんに昼食中に言われ、とりあえずそう答えておく。


 今回はアラバスターとの戦闘だから、強化アーマーと盾は使わないつもりだから、通常装備で行くつもりだ。


 だって炭坑大脱走の犯人が、隣国にいたらってばれたらやばいじゃん? 銃は戦闘中の混乱ならバレないだろうけど。


 昼食が終わり、後片づけやらなんやらでもたつき、やっぱり歩き出すまでに時間がかかる。


 これも行軍が遅い理由か。レーションもないから、スープなんかは時間がある朝と夜くらいにしか、たぶん出ないな。


 ってか水の樽が少ないと思ったら、魔族の男が樽に手をかざして水を満たしていたので、水は多く持たないで済むみたいだ。



 三十日後。色々な村や町から若い男を徴集しつつ、やっと国境線の砦が見える場所に来た。


 せめてもの救いは、事前におふれが出ていたのか、揉めなかった事だろう。けど、泣きながら奥さんと思われる女性や彼女、子供と別れる姿を見ると少しだけ心が痛むが、うらやましい……。


 なんかグリチネはドライなんだよなぁ……。そう思いつつ、腰のポーチに、ハンカチとピアスがある事を確認し、とりあえず安心する。


「どんどん人が集まってきたな」


「ルチルは一番国境線に近い街だからな、戦場に付く時間が早いのは当たり前だ」


 夕方になり、辺りを見回せば本当に三万人近くなっているし、大きな指揮官用のテントの周りには、重装備の兵士が沢山いる。ってか騎馬用の柵とか、穴掘らないの? なんか頭痛くなりそう。


「どうやって戦が始まるんだ?」


 不安になってきたので、グルダンさんに聞いてみる。


「今回は場所と時間を指定された戦いだからな。並んでからの突撃だろ。後は数と采配だろうな」


 頭いてぇ……。最悪数数が多い方が勝つぞこれ。


「ただ、侵略されたとかだったら柵とか色々用意して、防衛とか色々準備はするぞ。穴掘ったり奇襲かけたり」


 一応防衛の方はちゃんとしているらしい。


「あぁ、わかった。で、いつ戦うんだ?」


「明日の太陽が真上に上った時だ」


 想像より下じゃなくて良かったわ。んー明日の午後か。弾が心配だから、今の内に装備変更しておくか。


 俺は端末をいじり、対物狙撃銃のマクミランと、自動小銃のHK416を装備し、、服装は茶色と黄土色の多いデジタル迷彩にし、銃の塗装も黄土色にする。もちろんドクロのフェイスマスクも忘れない。


 アクセサリーは、マクミランに可変スコープ、HK416にオープンドットサイト付きACOGとグレネードランチャーくらいだ。


「うお、なんだそりゃ」


「悪いな、あんな軽装じゃ戦えるはずがない。移動は軽い方がいいからな、現地で装備だ。グルダンだって防具は荷馬車に積んでただろ? 似たようなもんだ」


 移動中ずっと話していた奴が、いきなり胴体に二種類のマガジンポーチと、グレネードランチャーの弾を入れる場所、背中には銃という変な筒、ドクロのマスクに、土色の服になったらびっくりするよな。


「偵察してくる」


 それだけを言い、自動小銃を背中に回し、マクミランをもって兵士達の固まりから離れる。



 ちょうどいい場所がないので、適当に離れたらうつ伏せになる。


 胴体のマガジンポーチが邪魔だが仕方がない。スコープの倍率を最大にまで上げ、敵陣営を覗いた。


 すると敵側も似たような雰囲気で、娼婦っぽい女性もいれば、商人みたいな人もいる。


 国境を越える時に入った砦は無事だが、左右にあった簡素な櫓やぐらは壊されていた。高い場所をとれれば有利だからな。砦の中はどうなってるんだろうか? あの時は二国の兵士がいたがどうなったんだろうか? 俺が気にする事じゃないな。


 石レンガにどす黒いナニかがなかったから、戦争の知らせがあったら挨拶して逃げてればいいって、平和的憶測をしてみたい。


 向こうも豪華なテントに、重装備の兵士が沢山いるな。あそこを一気に潰したら終わるんじゃねぇの? 後で聞いてみるか。


 そう思いつつ、俺は装備をジャベリンに変え、一分後にかなり小さく見える豪華なテントに照準を合わせると、ロックオン完了のピーという電子音が鳴り響いた。


「あちゃー、狙えるのか。射程は二キロだからギリギリって感じかな?」


 そう思いつつ人の集団、地面付近を狙うと、ロックオンできた。


 対物って言うより、中のコンピュータが勝手にやってくれるのか。ゲームでも地面も狙えたし当たり前か。



 俺は豪華なテントに近づくが、重装備の兵士に阻まれた。お仕事ご苦労様です。ってかドクロの覆面してたら止められるよな。


「ルチルの関係者だ。領主のサイン入りの命令書もある。入れてくれないだろうか? いや、コレを渡すから確認を取ってきてくれないか? それで中の方達が良いと言ったら入れてくれ」


 そういって紙を渡し、重装備兵だか近衛兵は中に入っていった。


 そして直ぐに、初日に見た派手な奴が出てきて、紙を返してくれ、俺をテントの中に招き入れてくれた。


「いきなりの訪問ですまない。あと換気をしてくれ。タバコの煙は結構肺とかに毒なんだぜ? それとも虫除けに使ってるのか?」


 もう少しグチグチ言いたいけどな。十一月の金髪の人みたいに。


「おい、いったいこいつは何なんだ。叩き出せ」


 なんか一番偉そうな奴が叫んだ。こいつが総司令官? 階級はわからないが、ビスマスの首都から来たんだろうか?


「待って下さい。こいつは飛竜を一人で、しかも二撃で倒した男です。領主様より丁重に扱えとお達しなのです」


「「「なんだと!?」」」


 ルチルの偉い奴以外が驚いてるが、当てられなければ落とせないし、腕が良ければ頭を一撃で吹き飛ばせた。まぁ、俺の狙撃の腕が悪いんだけどな。


 テーブルを見ると、よく見た事のあるT字の駒みたいな物が色違いで二種類乗っている。兵棋へいぎもあるんだな。布陣用かな?


「提案なんだが、聞くだけ聞いてくれるか?」


 テーブルに近づいて、敵だと思われる赤い駒をとって地図に置く。


「ここに国境線の小さな砦があるな? そしてここに敵のお偉いさんが沢山いるテントがあった。開戦直後に吹き飛ばす事が可能だが……。どうする?」


 ってか砦取り合わないの? 戦場が俺の考えてた場所と全然違うんだけど。


「馬鹿か、指揮官が一気にいなくなると、兵士が散り散りになって盗賊化する。この辺り一帯の治安が悪くなるぞ」


 そうか、よく考えたらそうだよな……。


「なら、一人一人指揮官らしい奴を適度に吹き飛ばし、指揮系統を混乱させるか? それとも適当に兵士の数を減らした方がいいのか? 俺は見ての通り戦術には詳しくない。誰か一人伝令をよこしてくれれば、その通りに動くが? 中央の最前列でもいいぞ?」


 わからなければ面倒だから、命令通りに動けばいい。ウェスに調子に乗って好きに動くとか言ってた自分を殴りたい。ってか恥ずかしい……。


「お前の役割に付いては追って知らせる。いったん席を外してくれ。馬鹿みたいな火力が一人いると、戦況が読みにくくなる」


「……そうだな。すまなかった」


 ビスマスの偉い奴に言われたので、テントを出ることにした。戦争は簡単じゃないな……。


 あと、戦争を終わらせるのも簡単じゃないみたいだ。


 仕方がないのでグルダンさんの所に戻り、毛布を敷いて銃を置いてから寝転がる。


「で、偵察はどうだったよ」


「あ? 全然だ。こっちと同じで、お偉いさんが集まってるテントができてたくらいだな」


「だろうな。戦場と兵士は生き物だ、時間で動きが変わる。その時にならねぇと、どうにもならねぇ」


「そうだな。クソ偉い奴にも言われた。けどなぁ……。伏兵を隠せそうな山や森もなければ、戦況に関わりそうな川もねぇ。本当に平地だけ。泥沼化しそうだ。頭の切れる奴はいるかな? いれば戦闘は簡単だろうな。あとはそれを実行できるだけの練度だな」


 それだけを言ってあくびをして目を瞑る。


「夕食になったら起こしてくれ」


「あいよ、今日もこっちで食うか?」


「そうだな。なんか変な目で見られながら飯は食いたくねぇな。ごちそうになる」



 二時間ぐらい眠っていたのか、辺りはもう薄暗く、篝火が焚かれていて、いい匂いが漂っていた。


「飯か……」


「あぁ、そろそろだ。ちょうど良い時に起きたな。まぁ飲めよ」


「いただきます」


 寝起きなのに、出された酒を断れずに飲む事にする。ご相伴に預かるのに、断る事は俺にはできない。


「ふう……飲みやすいな。知ってると思うが、酒はあまり飲まないようにしているんだ。悪いな。適当に水に変えてくれ」


「なんだよ。せっかくお前と飲めると思ってたのによ」


「明日二日酔いで戦争する勇気はなくてな」


「飲まなきゃやってられねぇぞ?」


「その感情は、クズ達を始末した時に味わってる。酒は戦争が終わってから、ゆっくり楽しもうぜ。生きてたらだけどな」


「だな。で、そのクズを始末した話を聞かせてくれよ」


「俺の飯が終わったらな。村を襲った盗賊を一掃する話だ」


 それだけを言って、志気を上げるためか、具沢山のスープや柔らかいパンが出た。コレを作ったのは傭兵に雇われてる女性達だろうか? 嫁がいたり娼婦がいたりと、傭兵団ってのはけっこう歩く村みたいなイメージがあるからな。ベル○ルクで読んだ。


 その後は約束通り、例の村の件を話したら全員が聞き入っていた。



「おいおい、いくら何でも吹きすぎじゃねぇのか? もう少し慈悲ってもんがあるだろう」


「まぁ、やりすぎたとは思ってるさ。次があったら気をつける。こんなほら吹きの話しを聞いてても、おもしろくはないだろ?」


「これはこれでおもしれぇぞ? んじゃ俺は女買ってくるわ。下手したら明日死んでるかもしれねぇからな」


「あぁ、悔いのないように楽しんできてくれ。俺は寝てる」


「おいおい、酒も女も賭もやらねぇ。お前は何が楽しくて生きてんだ?」


「俺でもわからねぇよ。きっと、生きるのが楽しいんじゃないか?」


 それだけを言って毛布にくるまり、借りたピアスを指で転がした。


「会えるのは戦争が終わってから三十日後か。お互いに無事ならいいが……」


 そう、誰にも聞かれないように呟いた。

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