第12話 豚を虐殺 後編
「スピナシアって奴はいるか! いるならこの部屋に来い」
街に帰り、ギルドに行くとベースキャンプにいた男性職員に名前を呼ばれ、そのまま別室に呼ばれてしまった。
皆の注目を集めながら呼ばれた部屋に入り、テーブルにはご丁寧にお茶まで用意してある。
「ギルド長に報告義務があるんでね。少しだけつき合ってくれ」
「あぁ。けど都合の悪い事には答えねぇぞ?」
「どうしても答えて貰わないと困るんだけどな……」
男性職員は困ったような顔になり、頭をポリポリと掻いている。
「まぁアレだ。鉄の杖をしごいて、オークを一撃で吹き飛ばす魔法使いの噂だ。これはお前だよな?」
「あぁ、もう隠すつもりはないが、一応そうなっている」
「そうか、ならここからが本題だ。集落に行った奴が、オークキングとクイーンの体が吹き飛んだと証言している。コレはお前か?」
本当に本題だな。
「大半が見てると思うが、俺はオークリーダーを吹き飛ばせるくらいの力しかねぇよ」
面倒事は避けたいからな、とりあえず誤魔化しておこう。
「なら方向性を変えよう。公爵様のお屋敷の門が崩れた事件は知っているか?」
「噂にはなってるな」
「そこで、ドクロマークの入った鎧を着た奴が目撃されている。これはお前だろう? 目撃者の情報と、俺がお前と話してた時の鎧と一致する」
明後日の方から積めてくるつもりか?
「そして飛竜の腹を吹き飛ばした穴と、雷のような音――」
「何が言いてぇんだ? はっきり言ってくれ」
俺は男性職員の言葉をさえぎり、多分もうわかりきっている事を聞いた。
「オークキングとクイーンは、討伐組の中でお前が吹き飛ばしたって事になってる。門を破壊する力、鎧、飛竜。ある程度つじつまの合う話だ。それに、討伐組は誰もがやってないと言っているし、吹き飛ぶ前に大きな音を誰もが聞いている。討伐組の殆どが、お前しかいないと言ってるんだよ……」
駄目だ、やっぱりバレてる……。時代が時代なら、カツ丼を出されて、電球を向けられてるところだな。
「何笑ってやがる」
「いや、思い出し笑いだ。気にしないでくれ。まぁ、そこまで言われたなら認めるしかねぇな。俺だよ、俺。面倒は避けたいから、誰かに押しつけたかったんだけどな」
「そうもいかねぇだろ。最悪、もっと被害が多かったかもしれねぇんだぞ?」
「それと俺が、何の関係があるんだ?」
それとなく理由も聞いてみる。
「キングとクイーンの討伐部位の金を渡して、ランクを上げないとこっちも示しがつかねぇんだよ。あんな倒し方されてみろ。誰もが俺だ私だって名乗りを上げねぇよ」
「あの時言っただろう、正式な依頼じゃないからランクを上げるなってな」
「そ、それはそうだけどよ……」
「俺は面倒事が嫌いでね。これから当てにされるのも困る。だから依頼を受けずに、討伐部位の売買だけで生活をしている。しつこいと最悪冒険者ギルドの脱退も視野にいれるが? なに、討伐部位はその辺の冒険者に少し安く売ればいいだけだ」
「それは困る、どうすればお前は納得するんだ?」
「ギルドからの緊急依頼で、都合の良い奴が朝に集められた。ならギルドからの仕事って事で、頭割りにすればいい。一旦全員から討伐部位も集めてたしな。最初から予定通りだ。俺に気を使うな。金に固執する訳でもねぇからな」
俺は両手を軽く広げ、首を振ってため息を吐く。
「わかった、それに関してはもういい。問題はどうやって吹き飛ばしたかだ」
「このギルドも、公爵様の城みたいになりたいなら教えるが……。どうする?」
もう面倒だ。脅して諦めさせよう。
「はぁ……わかった。聞くなって事だな? 結局呼んだ意味はなかったな」
「そうだな。とりあえずお疲れ様、ってところだな」
俺は一口もお茶に手を着けずに立ちあがり、堂々と個室を出た。
「オッサン、どうしたんだ? 個室なんかに呼ばれてよ」
「説教されただけだ、気にすることでもねぇよ」
とりあえず、すぐバレる嘘で誤魔化し、受付の女性が今回の討伐部位は全て頭割りで、すぐにお金は用意できないから、後日ギルドカードに振り込んでおくと言うことが伝えられた。
□
さて、帰るか……。そう思いつつギルドの隅の席から腰を上げると、今度は、白髭を蓄えた爺さんと一緒に、先ほどとは別な男性職員が俺の前にやってきた。
「君がスピナシア君だね? すまないが私に時間をくれないかな?」
全国を渡り歩いて、縮緬ちりめんでも売り歩いてそうだな。眼力も似てるしな。ならこの男性職員は、両隣のどっちかだな。どっちが印籠を出すのか忘れたけど。
「えぇ、良いでしょう」
周りがこちらを見てざわついてる中、俺が返事をすると笑顔で首を縦に振り、しっかりとした足取りでカウンター奥の部屋まで案内された。下手したら現役だな、この爺さん。
「私はルチルの冒険者ギルド支部長を任されてる、ただのじじいだ。申し訳ないんだが、キングとクイーンを倒した方法を教えてはくれんかね? もしかしたら、街の近くに脅威が近づいて来た場合は、君に依頼をするかもしれない。手の内を見せるのは嫌だと思うが、どうかお願いだ。今後の判断の為に私達に見せてはくれないだろうか?」
武器を見るのに一番上を連れてきたか。しかもここは結構大きな街……。それなりに偉いんだろうなぁ……。
「街の近く以外での脅威では、依頼には同意しかねますが、目上……しかもギルド長のお願いとあっては仕方ありません。この事を秘密にできるのであればお見せいたします」
「……いいでしょう。君も他言無用だぞ?」
「わかりました」
二人が同意したので、とりあえず軽くため息を吐いて呼吸を整える。ってかこの男はギルドの副長か?
「では、テーブルの上をお借りします」
俺は端末をいじり、オークキングを吹き飛ばしたマクミランと、飛竜を倒したダネルを選択した。
空気を呼んだ端末が、テーブルの上にゴトリと二丁の銃を置いてくれた。
「こちらの大きい物が、飛竜の腹に大穴を開けたものです。そしてこちらの比較的小さい物が、今回使用した物です」
そう説明すると、二人とも目を見開き銃をまじまじと見ている。
「一種の魔法武器とお考えください」
俺はマクミランのマガジンを外し、コッキングレバーを引いて、装弾されている弾を取り出した。
「コレの先っぽの尖っている物が、魔法の力で飛びます。弓やクロスボウとは比較にならないほど早く……。持っている筒の方に魔力が込められてると思ってください」
俺は弾頭を下に向けてテーブルに落とすように手放す。そうすると弾の重さだけで、テーブルが少しだけヘコんだ。
「これがキングとクイーンを吹き飛ばした物の正体です……。そしてこれが飛竜……」
俺はさらに大きな弾をポケットから取り出し、テーブルに置いた。
「筒の大きさを見ればわかりますが、込められてる魔力の量が違うのがわかると思います。そして先端も大きくて重い」
「持ってみてもよいか?」
「えぇ、どうぞ」
興味があるのか、ギルド長がマクミランの方を手に取った。
「両手剣より重いな……。これを持ち歩くのか。遠征が嫌になるな……。もし、もしもの話だが……。今回みたいな事があったら、また手を貸してくれぬか?」
「先ほど対応してくれた別な職員にも言いましたが、自分は面倒事が嫌いです。だから公爵様のお屋敷があのようになりました。まぁ、あちらは断ったら、力で言うことを聞かせようとしてきたので、少しやんちゃさせてもらっただけです。そうですね……。運が良かったと思ってください。街に比較的近かった、街の上に飛竜が飛んでいた……。自分は、自分の身、住んでる場所を守る事なら手段を選びません。かといって、どこかに所属するのは嫌いです。最悪仕事としてお金で雇ってください」
まじめな顔で支部長の顔を見据え、落ち着いた声で諭すように答えた。
「わかった。貴重な時間をありがとう」
「いえ、理解していただきありがとうございます。貴方が公爵様のように権力を振りかざす事なく、紳士でいてくれて良かったと思います。では、失礼します」
俺は端末をいじり、テーブルにある銃を消し、部屋から出てカウンターの外に出ると、ドミニオンズさんが駆け寄ってきた。
「スピナさん、今日はありがとうございました」
「ん? あぁ、気にするな。とりあえず全員無事だったなら問題ないだろ」
「えぇ。ただ、一部始終を見ていたベリィが、少し複雑な顔をしてましたが……」
「言い争いの事で気に病んでるなら、気にしてなかったと言ってくれ。それか自分よりランクが下でも強い奴に、強く当たるような事はしないようにすれば、許してやるって言っておいてくれ。どっちを選ぶかはお前次第だ、性格の矯正をさせたいなら後者だな」
「そうですね……。それとなく注意しておきます」
噂の件と今日の事を含めて、俺に当たり散らしたのを気にしているんだろう。冒険者だし、噂には注意をはらっておくよな……。
「あぁ。可愛いんだから、素直になってくれると俺も嬉しいな。お前もリーダーとしては、そっちの方がいいだろう。そのうち、どっちかがどっちかと良い感じの雰囲気になるんだろうからな。キツい性格が良いって奴もいるから、何とも言えねぇけどな」
「え、えぇ。まぁ。ベリィはああ見えて優しいところも……」
「ごちそうさん……」
少しだけ顔を赤くして、口ごもってるドミニオンズさんに一声かけてからギルドを出た。
「オッサン飲みに行こうぜ! この間の十人、全員そろってるぜぇー」
今度は入り口を出たら出たで、調子のいい男に声をかけられた。後ろには、確かに見覚えのある九人。
「おいおい、まだ太陽が高……あぁ、そうだな飲んじまうか」
飲みニケーション……。こんな世界だからこそ、色々な情報を得るのに必要不可欠なのかもしれないな。
「おすすめを知らないんだ。なるべくお勧めの場所を頼む」
「あれ、スピナさんは普段どこで飲んでるんですか?」
「ん? 寝泊まりしてる宿の一階が酒場だから、そこで夕食と一緒に一杯だけ飲むな」
「うっそだぁ! もっとガバガバ飲みそうなのに」
「酔うと判断力が鈍る、だから深酒は極力しない。一日の終わりにもう仕事はしないって意味で、区切りをつけてるだけだ。酒は自分の中で、気持ちを切り替える道具だと思ってる」
皆と雑談をしながら、先導してくれている奴の後ろを歩き、大衆食堂っぽい所に着いた。
「ここが俺のおすすめで行きつけ、料理の品数も多いぞ」
ぞろぞろと店内に入り、中央のテーブルを三つ占拠する。昼過ぎ、夕食前。空いてる時間帯だからできる事だよなぁ。
「さてさて、こいつがメニューだ。料理が多いだろう」
「日替わり定食にビール」
俺は座った瞬間に、メニューを見ずにそう答える。
「オッサン早すぎ、もう少し悩もうぜ」
「そうですよ、こんなにあるんですから見るくらいはしましょうよー」
調子のいい男と、小柄な女性二人にブーブー言われたが、ある意味性分だから仕方がない。
「日替わりってーのは、その時店の店主が選んだ食材で、一番美味く最高の自信をもって作れる物か、今日はコレが作りたいって気分で決める物だと思ってるから、外れがないと思ってる。ただ、個人的に嫌いな物が多く入ってたら外れだけどな」
「オッサン、何が嫌いなんだ? 何でも食べそうに見えるが……」
リーダーをやった男が、興味深そうに聞いてきた。
「生のトマトそのままだ。あの香りと味が駄目だ。調理されてれば平気なんだけどな」
苦虫を潰したような顔で答えると、周りから大きな笑い声が聞こえた。
「オッサンかわいいですねー、その見た目で嫌いな物がトマトって」
「本当だぜ、トマトなんか塩付けて丸かじり。俺は最高だと思うけどな」
「ま、まぁ。好みの問題だから、し、仕方ないだろう」
リーダー、笑いたければ笑ってもいいんだぜ?
その後は酒が運ばれてきて、乾杯をし料理を楽しむ。
そして日替わり定食の野菜の所に、四つ切りにされたトマトが一切れ乗っていたので、さらに周りが笑い、ビールを一気飲みして酔った小柄な女性から、あーんをされ、逃げる事ができなくなった。
「お、おう」
俺は口を開け、口内に赤い物が運ばれ、能面のような顔で三回ほど噛んでから無理矢理飲み込んだ。なるべく噛みたくないし……。
周りから歓声が上がるが、俺は日替わり定食の肉を速攻で食べ、トマトの味を消す。
「女の子に食べさせて貰えば、食べられるんじゃねぇか? 可愛い女の子探して、付き合っちまえば好き嫌いがなくなるぜ」
「馬鹿を言え、調理されてれば食える。パスタやスープに入ってれば問題なくな!」
多少ムキになりつつグリチネの事は話さず、今日の打ち上げは楽しく終わった。たまにはこういうのもいいな。
□
「へぇ、普通の付き合いもできるのね」
宿屋に帰り、夕食はいらない事を伝えると、グリチネからそんな事を言われた。
「まぁな。一匹狼でやってるが、機会があればコレくらいはできるさ。夕方の開店時刻まで少し横になってる」
「はいはい、ごゆっくりー」
グリチネはそう言って、ニヤニヤしながら煙草の煙を吐いていた。
――銃器関係に詳しくない人の為の緩い武器説明――
気になったら自分で調べて下さい。
M1216:筒の中に弾が四つ入り、それが四つ束になっているので合計十六発撃てる。引き金をひけば撃てる。
弾の使い分けも簡単にできるらしい。
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