第9話 飛竜と引き抜きと 2/3

「ただいま戻りました」


「おかえり。結果は?」


「まぁまぁってところだな。お茶ください」


「やるじゃん。今淹れるわね。そしてコレは私のおごりよ」


「あぁ、すまねぇな」


「街の平和を守ったかもしれない、男へのお礼ね」


 グリチネさんが微笑みながらお湯を沸かしてる。そしてまたヒョロイ男が扉を勢いよく開けた。


「今すぐ外に出ろ!」


 雰囲気がかなりピリピリしている。まぁ、あんな事があったんだから仕方ないな。


「理由は? 俺はお茶を淹れてもらうのに忙しいんだ。特に急ぎじゃないなら後にしてくれないか?」


「いいから外に出ろ……」


 それしか言わなさそうなので、俺は舌打ちをしてから席を立った。


「多分お茶が、いい感じで飲める頃には戻ってこれると思うぜ」


 そう言ってから俺は外に出た。


「アレは貴様がやったんだろう……。正直に言え」


 ヒョロイ男はドアの前で、俺を威嚇するように普段より声を低くして言ってきた。


「アレってなんだ? ちょっと学がねぇから言いたい事がわからねぇな」


 俺も睨むようにして、少しだけ軽口を叩いてみる。


「飛竜の件だ。商人の家の庭先で腹に二つ大穴を開けて死んだ。そして二回ほど聞こえた雷のような音。この街で、そんな高度な魔法を使える奴はいない。この間の家の破壊の件で、貴様の手口はある程度わかっているつもりだ」


 ヒョロイ男は、腰の短剣に手を少しだけ近づけた。


「俺だったらどうするつもりだ? 腰の短剣で殺すのか? 殺すならしっかり殺せよ? 敵に回したらどうなるか想像つくだろう?」


 俺は謎の薬が入った注射器の位置を確認しつつ挑発し、右手は直ぐに自動拳銃mk23を抜ける様に構えておく。


「何がそんなに気に食わないんだ? 俺がお前の依頼を断った事か? 飛竜を倒した事か? 両方か? こっちだって依頼を受けたくない事もある。あんまりあてにするんじゃねぇよ」


「ふざけた事をぬかすな! どうせ倒すならなぜ最初に俺から依頼を受けない!? 飛竜の討伐部位の金額や後処理はどうするつもりだ!」


「俺が思い通りに動かない事を思い知らせる事と、頼りにされすぎる事をなくす為だ。実際に俺は奴等の尻ぬぐいだったんだろう? 別にこの街の兵士に怪我はない。バリスタの準備だって訓練だと思えば良い。飛竜の討伐部位は尻尾で吹き飛ばされた奴の治療代にすれば良い。飛竜討伐の主張をするつもりはねぇよ。やとわれてる私兵の奴等の手柄にでもしろ。向こうが突っぱねたら、インフラ整備か孤児院にでも寄付しとけ」


 これ以上俺からはいう事はないので、勝手に話を切り上げ宿屋に入った。


「怒声が聞こえたけど、なにかあったの?」


 カウンターに、既にお茶が置いてあったのでそこに座る事にした。


「飛竜をどうするかって話だな。今は噂の商人の家の庭で死んでるから、雇ってる奴等の手柄にでもしてろって言っただけだ、あっち!」


「へー、手柄も金も突っぱねるのね。訳ありみたいね」


「あぁ、面倒くさいのは嫌いでね。当てにされすぎるのも嫌いだ。そしてお茶がいい感じで冷めない程度には、話が早く終わっちまった……」


 苦笑いをしながらお茶を啜り、今日は仕事に行く気分じゃないと言って部屋に戻った。



 昼食を食べ、部屋に戻ろうと思ったらまたヒョロイ男がやってきた。


「またかよ……」


 小声で愚痴り、ついでに舌打ちも出てしまった。


「お前に正式な出頭要請だ。できる限りの小奇麗な服装か、戦闘時の服装で来いとのお達しだ。通りに馬車を待たせてる、なるべく早くしろ」


 ヒョロイ男は俺の前に一枚の紙を置いた。紙を見ると、話を聞きたいから来いってな内容と、なんか長い名前と一緒に、赤い蝋に判子っぽいのが押されてあった。


「ひゃー。あんた何やったんだ? この街を治める貴族様に呼ばれるなんて」


 食事を食べていたオッサンがかなり驚いている。規模的に街だし、偉いんだろうなぁ。


「大した事はやってねぇよ。多分悪い事したから怒られるんだろうな。はぁ……。んじゃちょっと着替えて行ってくるわ。ごちそうさん」


 俺はカウンターに食器を戻し、グリチネさんに笑われながら部屋に戻った。


 一応礼服っぽいものはゲーム内に存在しているが、これで良いのだろうか? それともタキシードの方がいいのか? この世界の正装がわからないな。戦闘時の服装……。


 その時俺はすごく嫌らしい笑顔をしていたと思う。


 俺は強化アーマーに盾といつもの自動拳銃を装備し、フラググレネードやスタングレネードも取り付け、ゲーム内でのほぼいつもの恰好になった。


 部屋を出て、階段をものすごく軋ませながら一階へ降りると、昼食時でにぎわっていた食堂が水を打ったように静かになった。


「行ってくる」


「気をつけてー」


 相変わらずグリチネさんだけが、いつも通りの挨拶を返してきた。


 ガチャリガチャリと物凄い音を出しながら石畳の道を歩き、通りに出るとヒョロイ男が、なんでその装備にした。っていうような感じでおでこに手を当て、物凄く嫌そうな顔をした。


「いつもの服はどうしたんだ馬鹿が!」


「これが普段戦闘時の格好だが? 戦闘時の服と言ったのはお前だろう……。それに俺からしてみれば敵地だ。最善の恰好で行くのが普通だろう? 依頼者が常に味方とは限らない……ってのが俺の考えだ。敵地に乗り込む――」


「馬鹿かてめぇ! まともな服を着てこい!」


 駄目だったようだ……。すごく残念だ。俺はこの格好でシリーズ通してほぼプレイしてるというのに……。酷いな……。


 俺は着替える為にいったん宿屋に戻り、五タイトル記念正装に着替え、階段を下りる。


 この正装はどこの国かわからない軍隊の正装風で、黒地に黄色い紐っぽいのが肩から胸につながってるし、マントだし! ブーツだし! 白の手袋だし!

 この肩のモップみたいな装飾と紐の名前が思い出せない……。


 しかも胸に、勲章っぽく今までのタイトルのロゴ風の色違いの物が五個ついている。サーベルがないのが救いか?


 けど装備にはあるから、この格好でサーベルを持ったまま戦場で戦っていた奴もいたなぁ……。


 ちなみに掲示板情報だが、世界各国陸海空ごちゃ混ぜとか書いてあったな。どこまでもスタッフの悪のりがすごいゲームだ。


「あら別人。こんなお方が、ウチの宿に泊まってるとは驚きね」


 別に驚いてる様子もなく、グリチネさんはフライパンを振っていた。


「滅多に着ねぇけどな。悪いがこれ以上は聞かないでくれ」


 早足で馬車の方に戻ると、さっきとは別な驚き方をされた。


「お偉いさんに会うんだろう? 普通の服じゃ失礼なんだろ?」


 まぁ正直かなりふざけてるんだけどね。


「あ、あぁ。それで問題はねぇ」


 そしてそのまま馬車に乗り込み、上級区のさらに奥の、ものすごく大きな家の建ち並ぶ場所まで来た。


「ちょっとした城だな」


「当たり前だろう。この街を治める公爵様のお屋敷だ」


「おいおい、素性の知れない男を上げて良いのか?」


「街に被害がでる前に、飛竜を倒した英雄だ。だから手紙をもって俺が来たんだよ」


「あぁ、そうかい」


「口の聞き方には気をつけろよ? じゃないと――」


「じゃないとなんだ? 不敬罪か? まぁいい。所詮流れ者らしくやらせてもらう。俺の情報は既に伝わってるんだろうからな」


 喋ってるうちに城壁に囲まれた場所に着き、門から中に入り、馬車を下りて跳ね橋の上を見ると紋章みたいなのが飾ってあった。


 盾になんかゴチャゴチャ描いてあるがよくわからない、盾を持ってるサポーターが全裸の女性なのは理由があるんだろうか? 女好きだったんだろうか?


 けどサポーターとかがあるし、本物の貴族なんだろうなぁ……。けどもっとゴチャゴチャしてたらもっと偉いんだろうなぁ。まぁ爵位なんか良くわからないから、普段通りでいいか。


 ってか掘りの中は水かぁ。防衛面もしっかりしてやがる。


 跳ね橋を渡って中に入ると巨大なホールと、大きなシャンデリアが目に入った。銀や金を磨いて作った物っぽい。調度品も色々あって無駄に金を使ってるのか、最低限の調度品なのかもわからない。


 そんな事を思いながら辺りを見ていると、話し合いをする家で見るようなメイドさんが近寄ってきた。


「申し訳ございませんが、武器と外套をこちらに預けて下さい」


 そう言って、クッション尽きのサービスワゴンを押してきた。


 俺は腰から自動拳銃を抜き、マガジンを抜いて、スライドを二回引き、誰もいない方に銃を向けて引き金を二回引いた。一応安全確認だ。


 そして手榴弾と閃光手榴弾、ナイフを預けた。


「いいか? 絶対に触るなよ? 何かあっても責任はとらねぇぞ? 管理する奴に絶対に言っておけ。その辺にいる奴も聞こえてただろ?」


 近くにいる奴を指をさしながら、確認はしたからな? と回りに知らせておく。


 銃は弾は出ない事はわかってるが、手榴弾系は未確認だ。怖いし試してないし。


「では、お部屋にご案内します」


 そう言われたのでメイドさんの後ろを歩くが、やっぱり露出の少ないメイドさんはいい。丈の短いスカートのメイドさんとは別物だよなー。


「こちらでお待ちください」


 メイドさんは挨拶をして部屋を出て行った。


 ふむ……。部屋にも調度品が多いな。しかも物凄く高そうな物から怪しい物まで。あの壁にかかってる絵なんか、絶対にこっちを見るためのものだよな。なんか変に立体感があるし、近寄って見たら瞳孔が穴だし……。


 このお茶請けのパウンドケーキを練って、瞳孔部分に詰めて手前側にも山にして盛っておくか。そして一個見つけたら、多分もう数ヶ所くらいはあるかもしれない。そうそう、このわざとらしい壺……の隣にある小さい穴。石レンガを積む時に意図的に作った穴っぽい。壺を少しズラすか。


 この絵の額縁の下に書いてある作者の名前……、露骨だよなぁ……。ここも塞ごう。


 あとは天井にー……怪しい部分はないな。床もかかとで音を出してみるが、空洞はなさそう。あーこの本棚。奥が薄暗いし、最悪隣の部屋が薄暗いとこっちから見えないからな。


 このワザとらしく一冊だけ高さが不揃いの奴。多分奥に穴開いてるんだろう。下の方の高さが合ってる本と入れ替えておくか。


 あと甲冑、テメーは駄目だ!


 俺はメイドさんが入れてくれた、湯気の出ているお茶を持って甲冑に近づいた。


「あーてがすべったー」


 そう言って、首や肩の隙間から熱い紅茶を流し込んだ。だって部屋の中で光点が光ってるんだもん……。


 よし、座って待ってよう! なんか甲冑が心なしかカタカタしてるけど、問題ないよな。


 手がベタベタするから、手袋を外して……。あぁ……、本の背表紙にもパウンドケーキがくっついてる。まぁいいか。どうせ背表紙だけで中身は木だろ。

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