第7話 買い物と破壊 後編

 馬車の中で男と対面するが、あまりいい気分じゃないな。それに話し合いの場だけであんな家を使い、必要最低限の使用人もいる……。考えたくないくらい裏はデカいんだろうな。


「何も持ってないようだが、平気なのか?」


 街から出て、しばらく走ったらいきなり喋りかけられた。まさか必要以外の事を喋るとわ思わなかった……。ってか馬車に乗る前に聞いてくれ。


「こう見えても魔法使いだ」


 そう言って多分見えてないタブレットを操作し、C4爆弾を取り出した。


「報告は聞いてるだろう。コレが奴のアジトを吹き飛ばした、黄色い包み紙だ」


 男にC4爆弾を手渡すと、慌てる様子もなく受け取った。


「コレが……ねぇ……」


 興味があるのか全面を舐めるように調べている。


 けど理解できなかったのか、俺に返してきた。そのあとは無言が続いた。



「止めろ」


 男が進行方向側の窓をあけて、御者ぎょしゃにそう言うと、馬車は止まり、男が下りたので俺も後に続く。馬車で一時間くらいか。結構な距離だな。


 何もないなだらかな丘だが、少し歩くと遠くに一件だけ家みたいなのが見える。


「あれだ」


「了解」


 俺は装備をいじり、ジャベリンを取り出した。


 これは小型ミサイルを発射するもので、一度ロックオンすれば、内蔵コンピュータで自動誘導される。


 主な使用用途は、建造物の破壊と、戦車の破壊。そして二種類のモードがある。


 建造物はダイレクトアタックといい、低空を飛行して真っ直ぐ進んでいく。戦車の場合は装甲が薄い上から攻撃する、トップアタックといって発射したら上空に飛んでいき、目標物の真上に来たら急降下しての破壊だ。


 ちなみに一発で、ちょっといい国産普通乗用車が一台くらい買える。逆を言えば、その程度で、人的被害がほとんどなく戦車が壊せれば万々歳って事だろう。


 今回は建造物なので、ダイレクトアタックにする。一分経ったので蓋をはずし、あぐらをかいて準備する。


 ゲーム中はあぐらをかく必要はないが、動画で本職の練習動画を興味があって見たらあぐらが多かったので、雰囲気を大切にする。


「後ろに立つなよ。死んでもしらねぇぞ」


 一応注意だけはしておく。バックブラストで死なれたら困るしな。


 モニターを覗くと、ゲーム画面と同じ物が表示され、丘の上の家だか小屋だかわからない場所に四角が表示され、警告音みたいな音が鳴ったので、発射ボタンを押してミサイルを発射する。


 そして発射されたミサイルはそのまま家の方に少し山なりに飛び、炎と爆煙が見え、遅れて爆発音が聞こえた。


 そしてオマケとして、もう一発弾を込め、同じ手順でトップアタックモードで射出する。


 ミサイルは、少し飛んだら上空に上がっていき、勢いよく小屋の方に向かって落ちていった。


 ってかリロードが簡略化されてて、撃ったら残った筒の中にミサイルが復活するのはどうかと思うぞ? それに対物用なのに、爆破範囲が広いのもゲームだよなぁ……。


「確認してくる。興味があればついてこい」


 ジャベリンはクソ重いので、装備を元に戻してがんばって走る。興味あるし。


 ゲーム中は体力ゲージがあったが、この世界では自分の息が切れるまで走れる。これもアバターのおかげだと思いたい。けど、俺の隣を一緒に走るの止めてもらえませんかね? 全力で走れば、俺なんか置いていけるだろうに……。



 目標だった建造物に着くと、建物の残骸と人の死体。生存者は不明。そしてやけに散らばっている銀貨と大銀貨、少量の金貨。これは見なかった事にすればいいんだな……。


 男は散らばっている硬貨をできるだけ集め、材料になってただろうと思われる、金と銀の固まりも回収していた。


 俺も金貨を拾ってかじってみるが、一応歯形がつく。メッキではないようだ。ってか同じ重さの金で、金貨にすれば価値が数倍に跳ね上がるから、偽金作ってたんだろうな。ってかメッキの技術あるん?


「う、うあ゛……。とうちゃん。かあ、ちゃん……ロ、ザン……ナ――」


 体の下半身が吹き飛び、色々ビラビラしているが死ねなかった奴がいたので、太股の自動拳銃を抜いて頭を撃って静かにさせる。


「放っておけば死んでただろうに。用心深いんだな」


「殺せって依頼だろ? それとも、この状態で情報でも聞き出すのか? それと慈悲深いって言ってくれ」


 そう言ったら男が鼻で笑い、精巧に作られた型を三種類を数個ずつ見つけ口を開いた。


「帰るぞ。それとそのかじった金貨もよこせ」


「あぁ。けど少し待ってくれ」


 ふむー。情報はあって、後は破壊だけだったんだろうか? 大銀貨がかなり多かったな。大金貨とか作ると足が着くからだろうか? それともあまり使えないからか? そしてここは偽金作りの粗末な工場って場所だったと。


 俺はその辺の棒を持って、床を叩いて回る。かなりボロボロで、大抵は音が軽いが、一ヶ所だけ床が綺麗な場所が気になったからだ。


 そこの床を集中的に叩くと、板が一部欠けて床下収納みたいな鉄でできた取っ手が出てきた。


「どうやって情報を手に入れたか興味はないが、情報を持ってきた奴は、この事を知らなかったらしいな」


 俺は取っ手を引っ張ると分厚い鉄製の蓋が百八十度開き、地下への梯子が出てきた。


「俺が入っていいのか? それともコレも仕事なのか?」


「……お前は信用できると思ったから破壊後に連れてきた。この事が見られてる以上は、どのみち同じだ。仕事だ、先に行け」


「了解」


 太股の自動拳銃を抜き、引き金の先についているライトを点灯させ中を見るが、地面しか見えない。


 俺はパラコードを根本だけ残っている柱に縛り付け、頭を下にして穴を下りていく。


 少しだけ頭を出し中を見るが人はいない。なので一気に下りて、ヒョロイ男に下りてくるように言う。


「はぁ……、見つからない方が面倒が少なくて済んだ。けど見つけなかったら、大変な事になっていた」


 俺がライトで照らしてる先には、乾燥した葉っぱや黒い固まり、瓶に入った液体が綺麗にならんでいた。


「コレは回収か? 破棄か?」


「回収だ」


「了解」


 俺達は梯子近くまで木箱を持ってきて、パラコードで縛り、ひょろい男が上に運ぶという作業を繰り返し、半分以上終わったら、男が馬車を呼びに行くと言って出て行った。


 作業中は無言だったが、これは何なんだろうか? 少しだけ興味が出たが、余計な事をすると後々面倒な事になるかもしれないので、淡々と一人で作業を続けた。


 そして上の方で声がしたので、残りの荷物を引き上げてもらい、ヒョロイ男が中を確認しに来た。


「もう何も残ってないな。破壊してくれ」


「了解」


 俺は左手のタブレットを操作し。装備蘭のすべてをC4爆弾にして、一分後に部屋の四隅と中央に置いた。


 フラググレネード系を合計で四つと、メインウエポンとサブウエポンを爆発系にするから、全部で六個にしかならないけどな。それに爆破しないと三分経っても爆発物は回復しないのでコレが上限だ。


「んじゃやるぜ?」


 目視で百メートル程度離れた場所でそう言って、遠隔操作のリモコンをカチカチと握ると土が空に舞い上がり、鈍い音と振動が伝わってきた。


 爆発した瞬間、ヒョロイ男が少しだけビクッと動いたのは見なかったことにしてやった。なんか急に携帯や目覚まし時計が鳴った程度の反応っぽかったし。


 なんか偽金を作る金型とか拾ってたけど、爆破して良かったのかな? 型とか……。まぁ、作ってた証拠があって、壊滅してればいいんだろうな。ってかギルドの金に偽物混ざってねぇよな?



 再び馬車に乗り、帰路に就くがやっぱり会話はない。なので話を振ってみた。


「少し聞きたいことがあるんだが……。いいか?」


「話せない物と、情報料をもらう場合がある。それは俺が判断する」


「なんて事はない。無学な俺に混ざり物と忌み子ってのがどういうもんだか教えてくれ」


 ヒョロイ男がため息を吐いた。


「忌み子ってのは魔族との混血だ。地域によるが嫌われてる場所が多い。見た目が人族に近い男か女と、気まぐれで性交してできた子供だ。大抵は産まれて、魔族よりだったら殺されてた。混ざり物も同じだ。ただ、そっちは魔族側で使われることが多い。極端な例を挙げるなら、コボルトとリザードマンとかだと、体に鱗、頭に犬の耳とかだ。魔族は異種族でも気にしない奴が多いからな。けど、爺さん婆さんのどちらかが忌み子で、血が薄くなるか、忌み子同士で子供を作ると混ざり物になる。お前もだろ? 人族はほぼ金髪碧眼だ……。最近じゃ魔族との戦争もないから、忌み子って言葉自体が廃れてるし、港町なんかじゃ平気で人族と魔族が仲良くやっている」


「そうか、疑問がとけた。感謝する」


 俺が礼を言うと再び黙ってしまった。何も言ってこないって事は、情報料は発生しないって事だよな。


 そしてしばらくして、門に入ったところで下ろされた。


「仕事ができたら、こちらからギルドか宿屋に出向く。もし何かあって、先ほどの家の住人を拷問にかけようと思っても無駄だ。住み込みで働いてるだけの使用人だからな。けど宿屋に手を出さない事は厳命してある、安心しろ」


 いつあの場所を使うかわからないのに。使用人雇って綺麗にさせてる財力は余裕であると……。


「拷問には興味ないな。それに、俺の泊まってる宿屋には手を出さない決まりになっているんだろう? その辺は信用している。しかもあそこが隠れ家だとは一切思っちゃいねぇよ」


「ならいい、お前には色々と期待はしてるからな」


 そう言って男は、布袋を俺に投げて馬車に乗ってどこかに行ってしまった。追いかけるような野暮なことはしない。一応信頼関係がまだ成り立ってるからな。


 けど上は貴族か、それを操る地下に潜ってる奴だろうな。本人達がこんなわかりやすい事はしないだろう……。


 偽金を作られて困る奴……。貴族の方が濃厚か? それとも逆か? 貴族が奴を飼っている? まぁ憶測だけどな。


 それと、金貨一枚で確実に仕事をこなし、自分の手を汚さない俺って駒が動かせる。そんな組織には仕事以外であまり関わりたくねぇわ。


 さて、布袋の中身だが……。なんで大銀貨五枚が余計に入ってんだよ――


 金貨一枚でも多いと思ってるのに、さらに上乗せ……。隠し部屋の発見が原因か?


「はぁ、今日も仕事休もう……。ってかギルドにお金預けないと……」


 俺はギルドにお金を預けると、毎回変な顔をされるが、それはクリーンなお金ですよ。


 それはちゃんと働いてもらったお金です。内容はどうであれ。



「ん? 今日も休み?」


「あぁ、ちょっと野暮用を片づけてたら、こんな時間になった。街の近くの魔物や動物を狩ってもいいが、ろくな稼ぎにならない。なら休んだ方がマシだ」


「ふーん。で、昼食は?」


「まだだ。出来れば頼みたい」


「私と一緒で良い? 別々に作るのが面倒なのよ。料金は多少安くするわ」


「それでいい。あと麦酒を付けてくれ。今日はもう仕事はしない。ポーターの仕事があるなら別に出さなくて良い」


「残念だけど、今日はポーターの仕事はないんだ」


 そう言ってグリチネさんは、目の前にビールを置いてくれた。


「悪いが先にやらせてもらうぜ」


「一気飲みしないでよね。昼食が間に合わなくなるから」


「昼間なんだ、のんびり飲ませてもらうさ」


 お互い口角だけをあげて笑い、俺はビールに口を付ける。


 そしてしばらくしたらパスタが出てきたので、カウンター越しに向かい合って食べ、部屋に戻らせてもらった。





――銃器関係に詳しくない人の為の緩い武器説明――


気になったら自分で調べて下さい。


ジャベリン ミサイルに内臓コンピュータがあり、ロックオンした場所に飛んでいく携帯小型ミサイル。一発がかなり高い。講習直後でも命中率が94%とか言われてる。

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