怨20 接点 / 葛飾区立石
一安興信所は、葛飾区の立石に事務所を構えていた。都心から遠く離れてはいるが興信所という職業には場所など関係はない。
客は自ずとこちらへ出向いてくれる。
それに、故郷である葛飾を離れたくはなかった。
幼少期に出向いた柴又帝釈天。
思春期にふざけ遊んだ金町や水元公園。
行きつけのBARのオーナーは幼馴染。
主な仕事は浮気調査が7割。あとの3割は家出人の捜索。そんな現実にも程々嫌気がさしていた。
理沙は求人広告を見て募集にきた訳だが、かれこれそれももう5年も前の出来事だ。
冷凍食品会社の総務部を辞めて、私立探偵という何でも屋に転職を希望してきた風変わりな女。
モデル経験アリ。芸能界でのタレント経験もアリ。
そんな理沙は普段でもかなり目立つ存在だった。
総務部に入れたのも、ある筋からのコネクションと言ってはいたがあまり深くは聞かなかった。
ロクなものではないだろう。
知りたくないことは詮索しないのが一番だ。
一安は、机の上に古い新聞と川崎市の地図を広げて赤い点を各所に付けていた。
奥の手狭なキッチンからはトマトベースの香ばしい匂いが漂ってくる。
ナポリタンは理沙の得意料理だ。
鼻歌交じりにフライパンを振っている理沙はとても可愛かった。
今すぐにでも抱きしめたい衝動を抑えながら、一安は考えていた。
何か、もう少しで繋がるような気がする。
捜索対象者は鎌田静子。
父親は鎌田明久。現在は福岡県北九州市で一人暮らし。
生き別れの母親の旧姓は木村寿々子。
一安は徹夜を覚悟した。
何かが判りかけている。
そう確信した。
深夜2時を回っているというのに、高木はなかなか寝付けないでいた。静子が行方不明になってから毎日が無駄に過ぎていく。不安と疑心暗鬼が交錯しながら己の精神を痛めつけている。
それは止められやしない。
元は自分がいけないのではないか?
振り返ってみると、悪夢にうなされ続けたあの日を境に人生の歯車が狂い始めた気がしてならないのだ。
川崎市の生田町。
死体女優と陰口を叩かれていた静子は、そのロケ地の小さなの神社の古札所で死んだ。見事な演技だった。
現場に立ち会えなかった高木だったが、そのドラマの撮影時に奇妙な夢を毎日見るようになった。
静子に内容を伝えると、生田町の撮影現場と情景が重なる事が判明して、数日後に二人でそこへ出向いてしまった。
ドラマの撮影現場近くのアパート。
警察の規制線と自殺者。
ちいさな鳥居。
死体女優と古札所。
水浸しのマンションの室内。
ワイドショーの怪奇特番。
赤いエレベーターと炎。
そして女の影。
高木の脳裏に悪夢がよぎる。
思い出したくもない幻を忘れようと、高木は睡眠薬を口にして布団にもぐり込んだ。
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