「ねえ」


 暗闇。


「ねえってば。おい。聴こえてますかあ」


 彼女の声。


「いや、路地裏で刺されちゃってさ。体力回復するのに時間かかったんだけど。とりあえずさ、この、スカートの上のところに刺さったやつ。抜いてくれない?」


 彼女の声。いつも通り。あの日のまま。


「あ、もしかして。わたしの姿。人じゃないか。ごめんね驚かせて。とりあえず、この、お腹に刺さったやつを抜いてもらえれば」


 おもいっきり。


 引き抜いた。


「おぐぅぇ。勢いが強いっ」


 覆い被さったものがなくなって。


 彼女。


「ふう。なんとかなった。たいへんだった」


 あの日のまま。


「路地裏で倒れちゃってさ。ごめんごめん。待った?」


 待ったなんてもんじゃない。何年もあなたのことを探し続けて。あなたのしていたことを引き継いで。


 言葉にならなかった。


「うわっ」


 とりあえず、抱きつく。


「おいどうしたの。泣いちゃってさ」


「待ってたよ。ずっと。わたし。待ってた」


「待っててって言ったからね。遅くなってごめんごめん」

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