待って(15分間でカクヨムバトル)

春嵐

01 刺される彼女

 すこしだけ。ほんのすこしだけ、待ってて。


 そう言った、つもりだった。


 路地裏。


 刺された。


 仕事柄、色々なところから恨まれている。街を守るために、かなり過激なこともやっていたから。


「こまった。これは困ったなあ」


 刺された腹からスカートにかけて広がっていく。さっきまでわたしが生きていることを証明する朱いもの。


「恋人が待ってるんだけどなあ」


 足に力が入らない。その場に、崩れ落ちた。


 自分を刺した相手。放心状態。包丁の落ちる、乾いた音。


「あ、大丈夫大丈夫。おねえさんのことは気にしないでいいから。どこかへお行き」


 自分を刺した相手。駆け去っていく。これでいい。どうせ、何かに操られて知らぬままに刺客になってしまったのだろうから。


「ふう」


 座り込んでいるのも大変になってきた。


 狭い路地裏だったので、壁に背中をつけて。足先を、向かい側の壁につける。


「はあ」


 街は。


 わたしがいなくなった後。どうなるのだろうか。


「最後に」


 一度でいいから。


「恋人に」


 逢いたい。


 頬が冷たい。少しして、自分が倒れたのだと気付いた。路地裏。ひんやりしてる。


 最期に見る景色は。


 路地裏の壁と地面か。




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