地獄回廊

鹽夜亮

序文 

 私は私の存在そのものである「咆哮」に幕を引いた。書き終えたのではない。書けなくなったのだ。….私は確かにあの日死んだ。そしてもう一人の私が生き始めた。

 私は確かに陽光の下を一時的といえど歩いたのかもしれない。生温い陽光は、確かに私を救ったのかもしれない。しかし、気づいたときにはもはや遅かったのだ。

 私が生きる場所は、夜だ。夜と、吸い慣れた地獄の空気が無ければ、私は生きていることなどできない…いや、正確には、そんな私に生きている意味など一つとしてない。


 陽光の下、再び私は私を殺そう。

 さぁ、住み慣れた地獄の無限の回廊が、朧に光る鋭利な月光が、肺を焼く灼熱の空気が、心身を苛む獄卒達が、そして何より底を這いずる私自身が、待っている。


 私はここに高らかに宣言しよう。

 咆哮は止んだ。

 されど、私は私を知るため、地獄へと還る。

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