白ノ宮

勇者の物語

「なんでお前がここにいるんだよッ!」


少年の叫びが少女に向かって放たれる。

しかし、少女は何も答えない。


「どうして...なんで俺らが殺し合わなきゃいけないんだッ!?」


相変わらず少女の目は濁っているが、ポツリと呟く。


「私が王国の勇者で貴方が帝国の勇者...ただそれだけ...」


その言葉を聞いた少年の目には涙が浮かんでいた。


「俺達って恋人だよ...な?」


縋るような目つきをする帝国の勇者。

それを冷たい目で見つめる王国の勇者。


「今は...敵同士だよ?...だから、

コロシアワナイトダメナノ

ね?...シよ?」


その言葉は重く、殺意の篭った一言だった。少女は剣を抜いて少年に襲いかかる。


ガキィン!


少年は自衛の為剣を抜いて少女の剣を防いだ。少年はこの世界を恨んだ。

恋人になって楽しい生活を期待していたのにいきなり異世界に勇者として呼び出され、敵国の勇者の恋人を殺さねばならないのを。


「クソッ...!やるしかないのかよッ!」


鍔迫り合いから離れた両者は一旦距離をとって勇者の必殺技を構えをとった。


「せめて「一撃で終わらせるッ!」」


両者の剣が光り始めたところで大きな破裂音が響いたと同時に両者間の地面が弾け飛ぶ。


ドパァン!


地面をえぐった張本人は楽しそうな笑顔を浮かべて二人に近づく。


「恋人同士の勇者対決!じぃつぅにぃ!感動ッ!けど結果は少女が死ぬぅ!それで少年は復讐を誓うッ!」


近づいてくるバケモノは金髪を靡かせながら、不気味な笑顔を浮かべる。

勇者達はあっけにとられている。


「だがぁ、残念でしタァ!御涙頂戴はさせませぇん!主人公として輝いていいのはぁ、僕だけだからァ!」


猟奇的な目つきをしたソイツは満面の笑顔を浮かべているが、纏っているオーラは女勇者の何て比較対象にならないほどの濃密な殺気である。

二人は殺気の強さで気絶しそうになるが闘志で踏み止まる。


「お前らモブはァ、僕を輝かせることだけ考えてればいいんだヨォ!」


ここで白ノ宮のメモは途切れている。

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