こわれた人形

OZさん

第1話

 あなたは、お気に入りの人形をもっていませんでしたか。そう聞かれるとほとんどの人が、

「ああ、そういえばそんな人形があったっけ。」

と、思いあたるはずです。そして、ある不思議なうしろめたさを覚えながら、

「あの人形はどこへいってしまったんだろう。」

と、思い出すのではないでしょうか。

 その人形は、きっとガラスのケースにしまわれた、豪華な飾り物ではなかったはずです。ちょっとよごれてすりきれてはいても、遊ぶときも寝るときもいつも一緒で、ほかの誰とよりも長い時間を過ごした、そんな人形だったのではないでしょうか。そして、そんな人形だからこそ、いつかみるかげもなくボロボロになって、いつの間にか忘れ去られてしまったのでしょう。

 でも、そんな人形たちのことを思い出す時、なぜ不思議なうしろめたさを覚えなければならないのでしょうか。それは、みなさんが無意識に、人形には心があると思っているからなのです。そして、大事な友達を、こんなにも長い間すっかり忘れてしまっていたことを、恥ずかしく思っているからなのです。

 では、もし人形たちに本当に心があったとしたら、人形たちはどう思ったでしょうか。

 ついこのあいだまで一緒に遊んでくれた友達から、急に見捨てられたことに驚き戸惑い、どんどん離れていってしまう心を、どうすることもできない自分を嘆いたことでしょう。

 でも、なによりも、人形達はとても悲しかったと思います。愛する者を失った悲しみに、心が引き裂かれそうだったことでしょう。いえ、本当に、心が引き裂かれてしまったのではないでしょうか。

 そんな人形達は、どうなってしまったのでしょうか。そんな人形達は、どこへ行ってしまったのでしょうか。

 僕がしたいと思っているのは、そんなお話です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る