第76話 おっさん、医者と知り合う

「つもる話は終わったか?」


 アンジェラと一緒にいるオリヴィエに話し掛けた。


「ええ」

「お願いします。村を救って下さい」


 アンジェラがいきなり俺に頼み込んできた。


「私からもお願い」

「もとより助けるつもりだ」

「ぐすっ、これで村がまた元のようになるのね」

「ほら泣かないの」


 アンジェラの涙をオリヴィエが拭う。

 村に怪しい魔道具が持ち込まれて、その虜になってしまったという話だったな。


 薬が魔道具になったというだけで、まんま麻薬じゃないか。

 確かに魔道具の類は禁止されていない。

 麻薬は禁止されているけどもな。


 とにかく、村に行ってから考えるか。


 村はそこらの寒村と変わらなかった。

 いや、違うな。

 村の周りの畑が草だらけだ。

 俺はその問題の魔道具を見に行った。


「タクサさん」

「おや、アンジェラじゃないか。ちょっと待ってくれ。今から起こすところなんだ」

「お構いなく。待ちますから」


「起こすって何だ?」


 俺は小声でアンジェラに尋ねた。


「悪魔の魔道具を使うという意味よ」


 タクサは魔道具から出た電極みたいな物を頭に貼り付けた。

 そして魔道具を起動させる。


「ほあー」


 タクサは恍惚とした表情で口を半開きにした。

 ほんとに麻薬だな。


 これを供給している奴をぶっ殺すとどうなるか。

 違法なら話はややこしくない。

 場合によっては盗賊の退治と同じように報奨金が貰える。


 だが、合法だと話は違ってくる。

 まず、俺達が指名手配される。

 ダンジョンみたいなところでぶっ殺したのなら証拠は残らないが、ここは村だ。

 魔道具が切れた村人がどういう行動をとるか分からない。

 俺達を訴える可能性もある。


 タクサの表情が突然変わった。


「プラグはどこだ! ああ、もうおしまいだ。金なんか残ってない」


 タクサは家の中を引っかき回し始めた。


「プラグというのが消耗品の訳だ」

「ええ」


「アンジェラ、頼む金を貸してくれ」

「持ってないのは分かっているでしょ」

「いや、お前の体があるじゃないか。ふひひっ、奴隷に売ってやる」


「そこまでにしておけ」


 俺はタクサの手を取ってねじり上げた。


「邪魔するな」

「眠ってろよ」


 俺はタクサを気絶させた。


「状況は分かった。魔道具を調べたい」

「ええ、あんな忌々しい物はバラバラにして下さい」


 俺は魔道具を解体した。

 魔法陣は精神魔法に似ている。

 これは予想通りだ。

 プラグというのを見る。

 釘ぐらいの大きさと形の魔石みたいな色の物だ。

 これが魔道具の動力源だな。

 プラグに魔力を込める。

 プラグは粉々になった。

 魔力の補充は出来ない仕組みになっているようだ。


 大体、分かった。


「タクサさん、どうされたんですか?」


 男が一人、入ってきた。

 入ってくるなり、タクサの脈をとった。


「暴れたんで気絶させた」

「そうですか」

「あんたは?」

「私は、この悪魔の魔道具の常習性を治せないか、研究している医者です」


 この男を信用していいのか。

 話を聞くだけは聞いてみよう。


「それで、成果は上がっているのか?」

「いえ、残念ながら。詳しい話が聞きたいのなら、診療所に来ませんか?」

「お邪魔させてもらうよ」


 診療所は薬品の匂いが充満していて、なるほど診療所だと頷けた。

 とりあえず村人を騙して金を取ろうという訳ではないようだ。

 治療は真面目にやっているふうに見える。


 医者は慣れた手つきでお茶を淹れると俺達に振舞ってくれた。


「常習性を断ち切る為のどこが上手く行ってない?」

「精神魔法は掛け終わると影響は残こらないのが普通です」

「そうだな。俺が思うに呪いなんじゃないのか」


「あの王家に伝わるという呪いですか」

「そうだな。俺はどういう仕組みか知っている。体の中に魔力で魔法陣が出来るんだ。それが影響を及ぼす」

「という事は魔法陣を破壊すればいい訳ですね」


「魔力で出来ている魔法陣を消すのは簡単だ。魔力を吸い取ってやればいい」

「どうやってですか?」

「魔道具を作ってだな」


 ええと前にやった時はどうしたっけ。

 ずいぶん前だったから、やり方を忘れてしまった。


「すまん、やり方を忘れた」


 地球に帰って調べるという手はあるが、地球でも色々とゴタゴタがありそうだ。

 異世界に帰って来れなくなるかも知れない。

 帰るのは方法がそれしかないと分かってからにしよう。


「忘れたって! 村人は助からないの!!」

「アンジェラ、落ち着け。何か方法はあるはずだ」


「方法は、ありますよ」


 医者がそう言った。

 良かった、方法があるみたいだ。


「教えて、私達は何をしたら良いの」

「魔力が元で起こる病気はいくつかあります。それの薬で凝り固まった魔力を散らすのがあります。たぶんこの薬で大丈夫でしょう」

「レシピを教えてくれ」


 必要な材料を教わった。

 これで村人が助かるといいが。

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