第59話 おっさん、カレーパーティを開く

 トラップダンジョンは盛況で一円玉もちらほら宝箱から出た。

 ワンイェンクラブの会員も順調に会員数を伸ばしたが、肝心のリオットは網に引っ掛からない。

 トラップダンジョンは駆け出しの修行場みたいになっているから、プライドの高そうなリオットは見向きもしなかったのかも知れない。


 ワンイェンクラブの方に加入すれば一発なんだが、グルメじゃないのかも。


 とにかくクラブを有名にしないと。

 今日の集まりはカレーパーティだ。


「色は悪いですが、食欲を誘う香りですな」


 市販のルゥのスタンダードな奴から、スープカレー、インドカレー、カレーうどん、カレーパン、カレー牛丼、カレーチャーハンなど多種多様の物を揃えた。

 俺は日本人の一般家庭だったから、市販のルゥの奴が一番美味いと思う。


「子供の頃カレーの匂いを嗅ぐと家に帰る足が早まったもんだ」

「そうでしょうな。分かりますよ」


「ふん、異国の美味い料理を食べさせると聞いたが、つまらん」


 本当につまらなそうな顔で中年の太った男が吐き捨てた。


「あいつは誰だ?」


 俺は近くにいた男に聞いた。


「ああ、クラン・ラベレンのクランマスターですよ」

「そうか冒険者か」


 冒険者ならば、あり得るな。

 カレーは美味いが、癖がないかと言ったらそうでもない。

 嫌いな人間も存在するんだろう。

 食べ慣れてないとインドカレーなんかはきついからな。

 好みにうるさいんだろう。


 ちょっと話をしてみるか。


「カレーの何がいけないんだ?」

「こんなの香辛料をとばとば使っているだけの料理だ。言うなれば成金の料理だな」

「あなたの好みではないようだ。では、次回は甘い物で企画しよう」


「きゃっ」


 カレーうどんを手に持った女性がクランマスターにぶつかり、服にカレーの汁が掛かった。


「無礼者!」


 クランマスターは腰に差した剣を抜いた。

 おいおい、クリーニング代ぐらいで勘弁してやろうぜ。


「それはいけないな」


 俺はトイレのスッポンをアイテムボックスから取り出すと、クランマスターの手首を叩いた。

 クランマスターは剣を取り落とすと、真っ赤になる。


「わしは威嚇しただけだ。このクラブは罪のない人間に危害を加えるのか?」

「剣を抜くのは良くない。ここは冒険者ギルドではないからな。ギルドなら威嚇ぐらい許されるがここでは駄目だ」


 俺は剣を拾うと渡しながら言った。


「ふん、二度とくるかこんな所」


 ラベレンのクランマスターは大股で去っていった。

 何を怒っているんだろう。

 冒険者だと言って街の中で無法が許されるはずもない。

 物分かりの良い奴だとすまんぐらい言いそうだ。


「なんやけったいな人やな」


 騒ぎを嗅ぎつけたのだろう。

 アルマが様子を見に来た。


「そうだな塩でも撒きたいところだ。俺の応対が不味かった訳でもないと思うしな」


「もしかして、商売敵と繋がっているんちゃう」

「そうだな、冒険者だから、護衛なんかで他の商会の仕事とかする。ムニ商会が気に食わない奴の仲間かもな」


「そんな事より、カレーちゅうのはぎょうさん種類があるもんなんやな」

「仕入れたいって顔しているな。インドカレーなんか作るのは難しいぞ。ルゥで我慢しとけよ。それなら保存も効くし、取り扱いが楽だ」

「ルゥは前から扱っとるから、別なもんがほしい」

「アルマの好きなカップラーメンのカレー味を、何種類か追加してやろう」

「おおきに」


「むかつく男よね。カレーを成金の食い物だなんて。ムニ商会ではお手頃価格で売っているのに」

「エリナもやりとりを聞いていたんだな」

「ええ、むかつく事と言ったら」

「胸糞。カレー牛丼至高」


「カレーのチョイスは良かったはずだ。盛況だったので嫉妬されたんだよ」


 カレールゥの即売会は物凄く好評だった。

 日本だと安いのが100円ぐらいだったから、銅貨10枚で売る事に。

 ちなみに商品の魔力はダンジョンコアので賄った。

 管理者から文句が出そうだが、そうしたら給料だと言う事にする。


 カレールゥ千個で10万魔力ぐらいは微々たる物だと思う。

 ダンジョンコアは1億魔力ぐらいあるからな。

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