第57話 おっさん、小休止

「こもってばかりで体に悪い。どこか行かへんか」

「そうだな。ダンジョンコアを使っての監視は面白いが、体が鈍るな」

「それなら、ええ所がある」


「お薦めに従ってみるか」


 スクーターに乗り、連れて来られたのは樹海。

 森が切り払われて道が出来ている。

 懐かしいな。

 ここの盗賊団を倒したんだっけ。


「狩ができるんや。それと温泉やな」

「温泉は久しぶりだ」


「それが楽しみで水着もってきたわ」

「酒、保養」


「温泉でお酒、いいね。まずは狩りだな」


 四人で樹海に繰り出す。

 迷わないように至る所に立札がある。

 なるほどこうなっているのか。


 それとコンパスだ。

 コンパスが狩りをする者には各自、貸し与えられる。

 このコンパス、元は俺がスキルで出してギルドに納めた。


「アルマの商会でコンパスを作っているんだよな」

「そうや」

「どこでその知識を得たか思い出せるか」

「あれっ、わからへん。思い出せんわ」


 やっぱりな。

 俺がやった事はなかった事にされている。


 ボウガンを武器に樹海を進んだ。


「獲物が出て来ないな」

「出て来る訳ないじゃない。狂暴なのはみんなギルドが狩って、残っているのは大人しい奴ばっかりだから」

「そうか。草食の奴が多いのか。じゃ、おびき寄せる餌は牧草だな。馬用ので良いだろう」


 俺はアイテムボックスから牧草を出して地面にばらまいた。

 少し待ったが。


「出て来ないな」

「来うへんね」

「出て来ないわね」

「闇力不足」


 肉食獣なら血の匂いがするとすぐに寄って来るんだがな。

 そう言えば、思い出したぞ。


「こういう狩りは勢子という獲物を追い込む係がいてだな。それで待ち構えている方に追い込む」

「ほな、別れましょか」

「えー、追い込む係は嫌よ」

「動物脅迫。承諾」


「三人で追い込むのは難がありそうだ。十人ぐらいいないとな」

「じゃ、どうすんのよ」

「どこか、気持ちの良さそうな所でお弁当を食おう」

「それ、ええね」

「そうね。狩りは駄目だけど、楽しいかも」

「牛丼」


 このまま立ち去るのも負けた気がして悔しいので、罠を仕掛けて立ち去った。

 樹海の中を進むと御花畑が現れた。

 ここが良いかもな。


「よしここで弁当を食うぞ」


 おにぎりを沢山出してやった。

 モニカのは牛丼おにぎりだ。


「これから、どうしようかな」

「温泉に行くしかあらへんね」

「そうだな。温泉に行くか。その前に罠を回収しておこう」


 罠を見に行くと、括り罠にウサギが掛かっていた。

 掛かるものなのだな。

 肉食獣がいないのでウサギの天下なのか。

 勢子が三人でも案外上手くいったのかもな。


 ピンと閃いた。

 敵であるリオットを殺すには、餌と罠だな。

 草食と肉食で餌が違うようにリオットに最適な餌があるはずだ。

 奴は手下を多数引き連れている。

 こういう奴は富とか名誉の誘惑に弱いだろう。


 ならば。


「一円玉を会員権にして特別なクラブを作ろうと思う」

「急になんや」

「どういうこと」

「説明不十分」


「俺が敵として追っているリオットをおびき寄せようと思う。それでだな。餌がいる。ダンジョンボスのドロップ品で一円玉を出して、それに特別な意味を持たせようと思う」

「名士の集まりちゅう訳やね」

「流行るかしら」

「食品誘因」


「食い物で釣るのは良いだろうな。それなりにグルメな物は出せる」

「食いつくと思う」

「ムニ商会が表向きのスポンサーになってやってくれるか? 金は俺が出す」

「そら、ええわ。ムニ商会の名も上がる」


 まずは会員制クラブを作る事からだな。

 一円玉だから、ワンイェンクラブとでもしようか。

 会員にはただでグルメを味わってもらう。

 噂を流さないとな。

 それと、ダンジョンボスのドロップ品に一円玉を加えないと。


 よし、新たなアイデアも出たところだし、温泉行くか。

 温泉は樹海の真ん中にあった。

 道が出来ていて馬車が運用されているので迷う事はない。


 温泉は露天ぶろで水着を着た人が沢山入っていた。


「なんか市民プールを思い出す」

「市民プールがなんや分からへんけど、こんなもんや」

「日本酒を頂戴」

「酒」


 良い事を考えた。


「はぁー、ワンイェンクラブ最高だな」


 湯舟に冷酒を浮かべて、俺達はこれ見よがしに冷酒を飲んだ。


「そこのあなた一杯どうです。本当はワンイェンクラブの会員でないと味わえないんですが、特別です」

「頂きます。ぷはー美味い。喉越しも滑らかで、すっきりした味わいですな。これに比べたらエールなんてしょんべんです」

「そうでしょ。ワンイェンクラブはグルメが集まるクラブ。食通を唸らせる物しか出してない」

「そのワンイェンクラブにはどうやったら入れるので」

「ダンジョンボスを倒すとこういったメダルが出ます。これが会員証です」


 俺は一円玉を見せてやった。


「ふむ、不思議な金属ですな。軽くて水に浮きそうです」

「ダンジョンボスに挑む勇気のある者だけが入会できます。年会費は不要です」

「入りたいが、私には無理なようだ。いや、冒険者に頼むという手があるな」


「あなたの入会を待ってますよ。窓口はムニ商会がやってます」


 風呂の中で上流階級らしき人間を何人か捕まえて宣伝をした。

 とりあえずの餌はこれで良いだろう。

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