第55話 おっさん、パーティに誘われる
スライム・ダンジョンも軌道に乗り始めたようだ。
主婦と思われる人間が訪れるようになった。
俺はある人物に注目。
それはなんと赤ん坊をおぶった女の人だった。
「ほぎゃあ、ほぎゃあ」
「おーよしよし。ごめんね、お乳が出なくて」
お乳が出なくて粉ミルクを求めてきたのか。
たんまり獲得して帰ってくれ。
彼女は太い棒を手にスライムに果敢に挑み始めた。
「おら、くたばりやがれ。こっちはこの子の命が掛かっているんだよ。地べたを這いずるしか能のない奴にやられてたまるかってんだ。ハイハイするんでもこの子の方が100万倍も可愛いんだよ」
言葉遣いが荒々しくなったな。
モンスターを前にして素が出たんだろう。
スライムを倒し回り最初にでたドロップ品は火炎瓶だった。
「ちくしょう。運の悪さが憎い」
「おぎゃあ、おぎゃあ」
見ちゃいられないな。
ポータルで現場に飛んだ。
「ほらほら、子供が腹を空かしているじゃないか」
「あんた誰だい」
「通りすがりの冒険者さ。それよりこれを使え」
「これは噂に聞いた粉ミルク。どこの誰だか知らないけどありがとう」
コンクリーブロックで急ごしらえの竈を作る。
鍋を火にかけお湯を沸かす。
少し冷ました後に粉ミルクを入れてかき混ぜ、人肌の温度に冷ます。
哺乳瓶に詰めて彼女に手渡した。
「おー、よしよし。たんとお飲みよ」
物凄い勢いで赤ん坊はミルクを飲んでいく。
十分飲んだところで彼女は赤ん坊の背中をとんとんと叩いてゲップをさせた。
「粉ミルクを獲得しても竈が無かったら、お湯を作れないだろう」
「粉ミルクの使い方を知らなかったんだよ。あんたこのダンジョンに詳しいのかい。教えておくれよ」
「しょうがないな。しばらく付き合ってやるよ」
それから二人でスライムを倒し始めた。
次に出たドロップ品はおしりふきだった。
凝固剤が不評なんで、現在はこれと入れ替えている。
「お尻を拭くなら、布で十分よ」
「便利だぞ。使ったらダンジョンに捨てりゃあ良い」
「馬鹿だね。ダンジョンに物を捨てるとモンスターが強くなるっていうじゃないか」
「そうだったな。そんな話があった」
「あんた熟練を装っちゃいるが、初心者なのかい」
「モンスターが強くなっても困らないほど強い」
「そうかい。そういう事にしておくよ。死んだ亭主も見栄を張りたがる人でね。それが原因で死んじまった」
生暖かい目で見られた。
いや、強いんだって。
「喋ってないでどんどん倒そう」
紙おむつ、ライター、ベビーパウダー、粉ミルク、哺乳瓶も次々に獲得した。
「悪かったね。荷物持ちさせちゃって」
「いいさ。頑張っている奴は応援したい」
「もし良かったら、あんたと私でパーティを組まないかい」
「組んでやりたいのは山々だが、仕事があるんでな」
「やっぱり副業かい。スライムを倒しなれているから、何度もここに来ているのは分かったよ」
「悪いな」
「ほぎゃあ、ほぎゃあ」
「おー、よしよし。これはおむつだね」
彼女は紙おむつに戸惑いながらもおむつを交換した。
「赤ん坊連れじゃ大変だな。乳母を雇う事はできないのか」
「そんな金なんかないよ」
「託児所を作るってのもありだな」
「あんた何者だい」
「強い冒険者だよ」
彼女と討伐をひとしきりしてから別れ、もよりの冒険者ギルドに行く事にした。
「ムニさん、また情報提供ですか」
受付嬢が気軽に声を掛けてきた。
「いや、今日は提案にきた」
「聞かせて下さい」
「スライム・ダンジョンの脇に託児所を作ったらどうだ」
「それはいいですね。主婦層も増えてきたようですし。ですが、予算がないと思います」
「俺が出してやっても良い。運営はギルドに任せたい」
「そうですね。託児所の建物は使わなくなったら、ギルドで別の事に使えますし。運営費の面をクリアできるのなら」
「ダンジョンで出た赤ん坊用品は、託児所で使えるから、運営費は人件費プラスちょっとでなんとかなるだろう」
「ではそれで提案しておきます」
託児所の建物はダンジョンの機能で作った。
安上がりに済んだな。
後日、託児所はオープンした。
ダンジョンの挑戦者に主婦がますます増えたのは言うまでもない。
驚いた事にかなりの寄付が集まった。
それだけ託児所がありがたかったって事かな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます