第47話 おっさん、絡繰りを解く

 俺の現在の名前はエックスだ。

 仮面を被った謎の人物。

 アシスタントはベンケイ。

 アルマ達だとばれてしまうからな。


 俺は流砂地帯の手前に来ていた。

 使者の白い旗を掲げてしばらく待つ。

 サラクオアシスの人間が気づいて連絡したらしい。

 兵士が10人来て、目隠しされて流砂地帯を渡った。


「エックス様、仮面を取っては頂けないでしょうか」

「酷い怪我を負って見苦しいので勘弁してもらいたい」

「左様でしたか。申し訳ない事を申しました」


 俺はサクラオアシスの空いてる家に入った。

 見張りがついているだろうから、子供にアタンを呼んできてくれるよう頼んだ。


 やって来たのは俺が率いていた小隊のメンバーの一人で女ったらしのリアスだった。


「アタンは居ないのか」

「隊商を率いて交易に出てます。私には声で分かります。隊長なんですよね」


「ばれてしまったか。リアスがここに来たのは、見張られているはず。これは俺の事もすぐにばれるな」


 まあ、俺の事がばれても支障はないが、アズリに会うまではばれない方が都合が良い。


「アタンさんが、帳簿の改ざんのからくりを突き止めました。ただ、スパイが至る所にいるので、信用できる味方以外にも言ってません」

「そうか、改ざんのからくりが分かったのか」

「カメレオンガエルの皮を貼って上から書き直したようです。上手く上に貼った皮を剥がす手を探しています」


 それなら良い物があるが、まずはアズリだな。


「皆にしばらくは動きを見せないように言っておいてくれ」

「分かりました」


 リアスが去って行き、夕飯の時間になった。

 アズリから会食のお誘いが来た。

 食べるには口元を覆えない。

 どうやら、ばれるのは確実らしい。


 口元を開けた、目を覆うだけの仮面を着けて、会食に向かう。


「お招きありがとうございます」

「いえ、遠い所をわざわざ来て頂いたのだから、お礼を言われる事ではありません。さあ食事にしましょう」


 たらふく食って、デザートが出て来た。


「ペットの同伴を許してくれて、助かったよ」

「可愛いわね。名前は」

「名前はベンケイだ?」


「わん」

「名前を呼ばれたら返事をしたわ。賢いのね」


「俺の相棒だ。一緒にモンスターを倒した事もある。よしよし、食べていいぞ」


 ベンケイを撫でる。

 ベンケイは床に置かれた皿の料理を食べ始めた。


「あなたとは初めて会った気がしないわ。何でも話せそう」

「何か言いづらい事でも」

「実は困っている事があるのよ。帳簿の改ざん事件があってから、秘密裏に帳簿の写しを作る事にしたの。それで写しと合わない箇所が出てきてる。誰かまた改ざんしているに違いないわ」


「なら、良い物がある。紙ヤスリだ。これで改ざんされている箇所を擦れば良い。改ざんを証明できる」


 アズリが給仕に何事か告げる。

 しばらくして給仕は帳簿を二つ持ってきた。

 二つの帳簿を見比べて違う箇所の上を紙ヤスリで優しく擦る。


「違う数字が下から出てきたわ。犯人を絶対捕まえるのよ」

「はい、必ず」


 給仕は頷くと退出して行った。


 なぜ犯人は皮を削って改ざんしなかったかと思っていたが、削った皮を見て謎が解けた。

 皮を削ると明らかに色が違う。

 削って書き直したのでは駄目なんだな。

 だから、薄い皮を貼って書き直した。


「前にこれがあったら、ムニを追放せずに済んだのに」


「後悔しているのかい」

「ええ、盟友と呼べるのは彼だけ」


「彼は気にしてないはずだ」

「そう、気分が楽になったわ。ムニ、色々とありがとう」


「俺はエックスだ」

「そうだったわ。なぜかしら、間違えたわ。あなたを寄越してくれた事を感謝しないと。オアシスの有力者達によろしく言っておいて」

「ああ、伝えておく」


 アズリも薄々感づいているな。

 感づいてはいたが、いまさら俺が戻るのも上手くないと思ったのかもな。

 トップが一度出した命令を撤回するのは勇気がいる。


 それに波風が立つ。

 俺も戻らない方が良いのかもな。


 側近も育ってきているみたいだ。

 給仕の彼が腹心の部下なのだろう。

 食事を任せるという事は毒殺できる立場という事。

 命を預けているに違いない。


 帳簿の写しの保管場所も知っているみたいだった。

 事が終わったら、俺はフェードアウトしよう。


 さて、次の一手はどうしよう。

 同盟まで持って行って、大軍同士で決着をつけたい。

 俺がやる事は同盟の締結だな。

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