第21話 おっさん、サンドシャーク・ダンジョンを攻略完了する

 ラスボスが出て来た。

 銀色に輝く背びれ、俺はこれをメタルシャークと名付けた。

 安全地帯を作って様子を見る。

 メタルシャークは砂の中を泳ぎ距離を取ると突進してきた。


「不味い。散れ」


 ダンプカー二台分の巨体が押し寄せる。

 地中の唐辛子を吸い込んだりしないのか。

 俺と逃げ遅れた子供達は背びれで跳ね飛ばされた。

 不味い、誰かが死ぬ。

 だが、大口を開けた瞬間がチャンスだ。

 来るなら来い。


 俺は立ち上がり身構えた。

 メタルシャークは顔を砂の上に出すと鼻づらで体当たりしてきた。

 こいつ、突進する時に口を開けてない。

 手始めに体当たりして獲物を殺すらしい。


 俺は体当たりの標的になった子供を突き飛ばして庇った。

 俺の人生も終わりか。

 体当たりで跳ね飛ばされた俺は砂の地面に何度もバウンドして止まった。

 体中が痛い。

 肋骨が折れたかも知れない。


 子供に重傷者はいないようだ。

 それだけが救いだ。

 とにかく体当たりを止めないといけない。

 話はそれからだ。

 メタルシャークは金属の体なのだから防御力は相当だろうな。


 槍を構えてダンプカーの質量に立ち向かうなんて出来ない。

 何かないか。

 まずはラジコンを囮だな。

 ラジコンを砂の上に置き走らせる。

 メタルシャークがラジコンにつられた。

 ここからラジコンに突進するだろう。

 そこからどうする。


 ふと戦国の話を思い出した。

 馬が鉄砲の音に驚いて突進を止めたと。

 そうだ。

 当たらなくて良いんだ。

 脅かして止めれば良いんだ。


 ラジコンに向かって突進するメタルシャーク。

 俺はタイミングを見て爆竹を投げた。

 顔が砂の上に出た瞬間、爆竹が鳴る。

 体当たりが止まった。


 俺はバールを手に持って痛みをこらえて駆け寄る。

 そして固まったメタルシャークの口をこじ開けに掛かる。

 駄目だ。

 パワーが違う。

 口を開けそうにない。


 その時手がバールに添えられた。


「私も手伝う」


 エリナが力を貸してくれた。

 メタルシャークは何を思ったのか急に口を開いた。

 死んだ。

 今度こそ死んだ。

 子供達が唐辛子の玉をメタルシャークの口の中に撃つ。

 こうなったら体内で唐辛子をばら撒いてやる。


 エリナが俺を後ろに押しやり、飲み込まれる。


「エリナ!」


 エリナとの思い出が走馬灯のように思い出される。

 死なないよな。

 死ぬんじゃないぞ。


 のたうつメタルシャーク。

 どうなんだよ。

 頼む無傷で現れてくれ。

 握った両手から血が滴る。


 メタルシャークが消え、魔石とドロップ品のポーションが出て、討伐はなった。

 無傷のエリナが現れる。

 俺はエリナに駆け寄り、思わず頬を叩いた。


「馬鹿。突っ込むんじゃない。死ぬかも知れないだろ」

「だって私、今は無敵だから」

「心配したんだ。胸が張り裂けそうだった」


 俺の顔は涙でぐしゃぐしゃになった。


「ごめんなさい、軽率だった」

「分かってくれればいい」


「アルマがあなたのどこに惚れたのか分かった気がする」


 エリナと俺は抱き合いキスをした。

 子供達が手を叩いて囃しているのが聞こえた。

 手でしっしと追い払う仕草をしたが、声は大きくなって口笛まで加わった。


 俺とエリナが離れる。

 真っ赤になったエリナを見てたぶん俺の顔も赤いのだろうと思った。


「こほん、約束のチョコレートだ」

「やった」

「一人一枚食えるなんて幸せ」

「もっとちゅっちゅしてて良いんだぜ」


「なま言うな。チョコレート要らないのか」

「要る要る。酷い。少しからかったぐらいでさ」


 笑いと共に弛緩した空気が流れる。

 さて、後は収穫だ。

 ダンジョンコアの部屋に行き、魔力を吸い取り始めた。

 吸い取った魔力でマヨネーズ、香辛料、そして、ガラス製品を仕入れた。

 その他の物として農具や大工道具や工具も仕入れた。


「ステータス」


――――――――――――――

名前:山田 無二 LV76

魔力:100/7600


スキル:

収納箱

魔力通販

次元移動

助手

――――――――――――――


 レベル76か。

 まあまあだな。


 よし、凱旋だ。

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