第14話 おっさん、宰相を引き受ける

 南からサラクオアシスに入った。

 門は崩れ落ち、外壁も所々が崩れている。

 家も壊れている物が多数ある。


 こりゃ再建は容易ではないな。

 オアシスの中央にある湖は枯れてはいない。

 これは安心できる要素だな。

 北側に回ると荒れ果てた畑があった。

 麦がいくつか穂をつけている。


「この品種はなんだろう」

「砂漠麦や。塩水でも育つみたい」


 アルマが答えをくれた。

 この品種を育てるしかないのだろうな。


「取れ高はどうなのだろう」

「一袋の種を撒いて三袋を収穫ってとこや」

「それなりだな」


 他にサボテンの畑もあった。


「サラダサボテンや。生で食べられるわ。世話をせえへんで育つ数少ない品種や」


 農業はこの地の作物に慣れた人にやらせたいな。

 俺が考える事でもないか。

 アズリが側近を作って決めるだろう。


 東に行ってみた。

 ここは職人街みたいだ。

 工房の跡が沢山ある。


 西は普通の住宅地だな。

 やはり家はかなり壊されている。


 壊された家は竜巻が通ったように線状になっている。

 その線がいく筋もある。


 そして中央に湖。

 湖の周りは商店が立ち並んでいたようだ。

 看板にその名残が感じられる。


 肝心の物がない。

 蒸留水を作る施設だ。

 これがない事には始まらない。

 今は水道水を通販しているが、将来を考えたら蒸留水の比率を上げたい。

 これも俺が考える事じゃなかったな。


「ムニ、どこに行ってたの。探したのよ」


 仮の本部がある壊れていない豪邸に戻ってきたら、アズリが待ち構えていた。


「アズリか。オアシスを一通り見ていた」

「酷いものでしょう。壊れていた家はサンドシャークが空から降ってきたのよ」

「多数食われたんだな」

「ええ、やつら見境ないから。砂から出ると死ぬのなら、良かったのに」

「這った跡もあった」

「酷いものよ。空から降って来て大口開けながら這い進むのよ」


「蒸留設備が無いが」

「父の側近が奪って逃げたわ。どのぐらい逃げられたかわからないけど。なかには忠誠心がある人もいたから、オアシスが復活すると分かったら設備を持って帰ってくるかも」

「期待薄だな」


「あなたには期待しているわ。お願い、宰相をやって」

「俺がか? 俺は政治力はないぞ」

「でも、問題解決能力はある」

「まあ、スキル頼みだけどもな」


「それでも良いわ」

「スキルで対処できる範囲内でなら引き受ける」

「よろしくね。あなただけが頼りよ」


「よし、まずは湖の北側の農地を再建しよう。俺のスキルで農具も出せる。一日50個ぐらいだけどな。食料を出すとその分少なくなる」

「まずは食料よね」

「小麦粉だと小さい袋を1000は出せるな」

「そんなに要らないわ。一人1袋もあれば十分よ。98人だから98袋ね」


「それと水か。一人4瓶は必要だから。約百人はいるから400瓶か。調味料は毎回いらない。塩味にするんだったら湖の水を使えば良い。農具は早めに欲しいから4個ぐらいかな」


「そうね。それぐらいで良いわ」


「野菜はサラダサボテンがあったから。当分はこれを食うとして。後はなんだ」

「毛布がないと寒くて眠れないわ」

「砂漠は冷えるものな。オアシスまでの道中は無理をしたが、あんな無理は続かない」


 毛布は一枚2千魔力はいる。

 百人分は無理だな。

 アルリー産の薪なら5千魔力で100人分出せる。

 これで我慢してもらうか。


「薪を支給しよう」

「薪は要らないわ。家の残骸があるもの」

「うーん、毛布の代わりになるものね。新聞紙、いや段ボールかな」


 ええと一番安いのは1枚100円の段ボールだ。


「よし、サンプルを出すぞ」


 俺は段ボールを出した。


「この板みたいなのが暖かいの」

「ああ、馬鹿には出来ない」

「そう言えば木みたいな冷たさはないわね。暖かくはないけど、ひんやりともしてない」

「今日の魔力は少ないから明日からだな」


「今日は家の残骸の薪で我慢して貰いましょう」

「ライターを追加で出しておくよ」


「今日はサンドシャークの肉で宴会ね」

「あれって食えるのか。人食いだぞ」

「そんなの誰も気にしないわ」

「俺は絶対に食わないぞ」

「美味しいのに」


「解体は出来るのかよ? 硬いんだろ」

「それがあるのよね」

「金切りバサミで切れないかな。それとも金ノコか。木に穴を開ける手動のドリルがあるな。この辺りでなんとかしたい」


「やってみようよ。ものは試しよ」


 俺はオアシスの広場にサンドシャークを一匹出した。

 手動のドリルで穴を開け金切りバサミで皮を切る。


 人が群がってきたので解体を任す。

 この肉、何人分になるかな。


「魔石確保だ。これ記念にくれないか」

「魔石が欲しい人は言って。素材の分け前から引いておくから」


 アズリの提案に、何人かの手が上がる。

 アズリが名前を書きとっていく。


「野郎ども、酒はないけど乾杯よ」


 アズリがそう言って宴会が始まった。


 水道水で乾杯してサンドシャークの肉を食う。

 俺は肉を遠慮した。

 こそっと、魔力通販で牛のステーキ肉を出して食った。


 少しぐらいの役得は良いよな。

 宴会から結婚式に突入だ。

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