第11話 おっさん、ピンチを切り抜ける

「アルマ、カプサイシンって何だ」

「分からへん」


 そうだよな。

 鑑定結果を鑑定なんて出来る訳ないか。

 とりあえず大岩で大人しくしておこう。


 その時、サンドシャークが大岩から離れ始めた。

 やった、諦めたのか。

 だが、無情な事に背びれがユーターンして加速し始めた。

 不味い。


 大岩の近くにきたサンドシャークはダンプカーの二倍ほどの巨体で空に舞い上がり、襲い掛かってきた。

 そして、大岩に取りついている討伐隊の何十人かを飲み込んだ。


 やばい。

 安全地帯がないじゃないか。


 再び、サンドシャークが砂に潜り、加速するために後退した。

 ぐんぐん加速。

 大岩の近くでジャンプ。

 大口を開けて襲い掛かってきた。


 いかん。

 大口の先には驚愕して固まったアルマが。

 俺はアルマを突き飛ばし、サンドシャークに飲み込まれた。

 くそう、ここまでか。

 こうなったら、アイテムボックスの食材を全て放出するぞ。

 満腹になったらゲップぐらいするだろう作戦だ。


 もってけ泥棒。

 やばい皮膚がぬるぬるしてきた。

 溶かされるのか、俺。


 その時サンドシャークの胃袋が痙攣した。

 俺はミキサーに掛けられたように胃袋の中で飛び回り、気がついたら吐き出されていた。


 思い出した。

 カプサイシンって唐辛子の辛み成分だ。

 さっき放出した食材の中に確かあったはずだ。


「あんた、無事なんか。なんでうちを庇ったりしたんや」


 アルマが俺に駆け寄って来て言った。

 アルマは泣いているようだ。


「分からない。気づいたら行動してた」

「うちが怪我しないのを知っとるやろ」

「そうだが、旦那なら女房を守る。如何なる時でもな」


 アルマが抱きついてきた。

 そうだ。

 サンドシャークはどうなった。

 見ると俺を飲んだ奴はくたばっていた。

 慌ててアルマと一緒に大岩によじ登る。


「倒したぞ」


 喝采が上がる。


「いや、まだだ。あれを見ろ」


 新たに現れた5つの背びれ。

 だが、弱点が分かればこっちのものだ。


「みんなさっきのを見ただろう。俺はサンドシャークに効く毒を出せる。魔力さえあればな。魔力を分けてくれ」


 魔力を貰い唐辛子の粉を出す。

 小袋にせっせと詰めてみんなに渡した。


 飛び掛かってくるタイミングで口の中に唐辛子の粉を投げ込む。

 だが、犠牲者は出た。


 仕方ないよ。

 無敵の英雄なんてものは居ない。

 討伐隊が半数ぐらいになった時にサンドシャークは全滅した。


「くそう、このサンドシャーク持って帰れればな」

「俺がスキルで収納しようか」


 なにせ俺のアイテムボックスは無限に入る。


「頼む」


 俺はアイテムボックスにサンドシャークを収納した。


「大金持ちだ」

「サンドシャーク丸ごとなんて防具屋がぶったまげるぞ」

「えーと、このまま帰って俺達殺されないか」


 俺は疑問をぶつけた。


「口封じされるってのか」

「されるな」


 みな一同に暗い顔になった。


「逃げてもな」

「そうだな。殺し屋が来るな」

「俺はオアシスに家族がいるんだ」


 うーん、魔力通販でも隠里は出せない。


「みんな聞いてくれ」


 アズリが声を張り上げた。


「言ってみろ」

「私はサラクオアシスの族長の娘だ」

「サラクオアシスで俺達を匿おうってのか」

「そうだ」


「騙されるな。サラクは滅んだはずだ」

「確かにそうだ。私はサラクが滅んだので逃げてきた。だが、滅びの原因はサンドシャークだ。奴らを倒せばオアシスが手に入る」


「どうする」

「やるしかないか」

「そうだな」

「そうだ」


「水はどうする。そこまで旅をするには水と食料がいる」

「水なら、俺がなんとか出来る。毒を作ったスキルで水も出せる」

「本当か」

「食料はモンスターを食えば良い」


「火種はどうする」

「それも俺が。薪も出せる」

「あんた万能だな」


「よし、サラクオアシスを目指すぞ」


「お近づきの印に食料を配る」

「おお有難いぜ」


 魔力通販で出した食料を配り、4魔力で1リットルの水道水を出して、みんなの喉を潤した。


「そう言えば俺達ってシャークキラーになったんだよな」

「活躍はしてないがな」

「追われる身だし」

「言うなよ。サンドシャークの素材は山分けだ。そこは譲れない」

「心配しなくてもそうするさ」


 男達に活気が戻ったようだ。

 これならなんとかなるかもな。

 もう一度サンドシャークとやらないといけないのは、ちょっと憂鬱だが。


 だが、作戦は考えてある。

 それが嵌れば犠牲者なしで切り抜けられるはずだ。

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