第4話 おっさん、オアシスに着く
三日間の砂漠の旅でオアシスに着いた。
ここはグエルオアシスと言う所らしい。
「じゃ、ここでお別れじゃな」
「ああ、達者でな」
「道中、気いつけや」
「アタン、空のペットボトル忘れてるぞ」
「いかん、いかん」
アタンは空のペットボトル4本をモレクに積み込むと特大の魔石を投げた。
「ほれ、魔石じゃ使うと良い。ペットボトルの礼じゃ」
「もらい過ぎだ」
「それは貸しにしとくわい。お前さんは大物になりそうな予感がするんじゃ」
「借りとくよ」
アタンはモレクにまたがると後ろを見ないで、片手を上げてひらひらさせた。
俺も手を振って見送った。
大通りを行くと道端に露店が並んでいる。
俺は雑貨屋の前に立った。
「水を入れる容器を売りたい」
「瓶は安いぞ」
俺がアイテムボックスからペットボトルを取り出すと店主は目を丸くした。
「これは、また。しかし、瓶だからな。一つ銅貨5枚ってところか」
「まだ着いたばかりでこの辺の物価が分からない。簡単に説明してくれるか」
「パンが一個銅貨1枚だな。水はコップ1杯で銅貨3枚。宿は銅貨10枚からだな」
「水が高いな」
「そうだな。バラム一家が仕切っているから高いんだ。大規模蒸留装置は設置済みだから、金はほとんど食わないはずなんだ」
「そんなんじゃ渇きで死ぬ奴が出るだろう」
「知らないのか。湖の水は少し塩気があるが、飲めるんだぞ」
そうか、オアシスだもんな。
俺達は湖に足を運んだ。
「うわ、汚いな」
湖を見た第一声がこれだ。
考えてみれば分かる。
生活排水が流れ込むのだからな。
不法投棄なんかもあるだろう。
プラスチックのゴミが浮いてないのはまだましだが。
こりゃ、ペットボトルを売るのを控えた方が良いかもな。
見ていたら、湖に浮いているゴミを掃除している人がいる。
スライムの入った桶に生ごみなんかを放り込んでいた。
「スライムを湖に放さないのか」
「そんな事をしてみろ。湖の水が飲めなくなっちまう。スライムは臭いんだ」
スライムは溶かしたり腐敗させたりするんだな。
「俺の持っている容器をスライムに食わせてもいいか」
「いいぞ。焼き物は食わない。やってみろ」
俺はペットボトルをスライムの桶に入れた。
うん、分解されるな。
少し安心した。
これで心置きなくペットボトルを売れる。
「邪魔したな。これはチップだ」
銅貨3枚を握らせた。
空のペットボトルに湖の水を入れておくのを忘れない。
こんな水でも飲み水だ。
さて、何を売って暮らそう。
水が入ったペットボトルは第一候補だ。
2リットルで蒸留水だと銅貨30枚で容器が5枚だから、銅貨35枚で売れる。
天然水だからもっと高値で売りたいところだが、当座はこれでいいか。
まずは露店の許可だ。
「その串肉をくれ」
「あいよ。銅貨2枚だ」
「露店の許可ってのはどこで貰える?」
「役所だな。あんたも露店をやるのか」
「ああ、瓶に詰めた水を売る」
「悪い事は言わない。やめときな」
「なぜだ。取り仕切ってる怖い奴らでもいるってのか」
「そうじゃない。客が必ずこれは湖の水かどうか聞いてくる」
「そうだな。ただ同然かどうかは気になるところだからな」
「飲ませろと絶対に言うんだ。飲ませてみろよ。平気な顔で全部飲んで、湖の水だから金は払わないと言いやがる」
「それはありうるな」
「バラムさんの所は試しに飲ませたりしない。オアシスを運営していて、詐欺を働かないのが分かっているから、商売が成り立つんだ」
「そうか、これでもか」
俺はペットボトルに入った水を見せた。
「ほう、透明な容器とは考えたな。湖の水だと濁りがあるから、一目瞭然だ」
水は上手く売れそうだ。
俺とアルマは露店の許可を取るべく役所に行った。
「露店の許可が欲しい」
「市民証はお持ちですか」
「いや、持ってないけど」
「浮遊民の方は露店を許可できません」
おいおい、そんな落ちだと思ってたよ。
「市民証はどうやったら手に入るんだ」
「金貨10枚ですね」
「えー、持っているように見える?」
「見えませんね」
「特例とかそういうのはないの?」
「ひょひょひょ、お前さん露店を開きたいのか?」
金ぴかな服を着た丸顔の小男が会話に入ってきた。
髪は短く刈り上げているが、いかつい雰囲気は微塵も感じられない。
なんとなく猿を思わせる人物だ。
アルマがこの男を睨んでいる。
気に食わないといった感じだ。
「そうなんだよ。露店が開けなくて困っている」
「わしが一つ紹介状を書いてやろう」
「バラム様の紹介状なら十分です」
この男がオアシスを運営している男か。
政治家の雰囲気はない。
その風体は芸人がぴったりだ。
「なんでまた。俺に声を掛けたんだ」
「わしも昔は露天商だった。色々と親切にしたもらった。その恩返しじゃいかんか」
「ありがたく恩をもらっておくよ」
「露店は一日あたり銅貨10枚になります。何日ですか」
「最初はお試しで1日だな」
「分かりました。区画はBの27番です。地図がありますので間違えないようにお願いします。店を開く前に隣に声を掛けるのが良いでしょう」
「ご親切にどうも」
「アルマ、区画Bの27番を指し示せ」
「はいな」
「おい、そっちは壁だぞ。方位磁針や電波のビーコンみたいな物か。よし、人に尋ねていこう」
俺達は露店の場所を探して訪ね歩いた。
「ここはBの27番かな」
「ああ、そうだ。俺の所がBの26番だからな」
「ありがとよ」
俺は水のペットボトルを前に座った。
さて、どうしよう。
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