第5話 おっさん、露店を開く

 俺はペットボトルを前に考え込んだ。

 よし、こうしよう


「アルマ、耳を貸して」

「はいな」


 アルマに作戦を授けた。


「不老不死で知られる富士の名水。それ詰め込んだ水やで。蒸留水とは一味ちゃう。寿命も延びるってものやで。さあ、こうた、こうた」


 アルマが声を張り上げる。

 何回か繰り返すと人が集まってきた。

 アルマにやらせたのは訛りだ。

 とてつもない遠くから運んできたと思わせる為だ。


「いくらだ」


 ほら食いついた。


「銅貨35枚だ」


 男が俺に金を払う。

 まいどあり。


「よし、金は払った。もし口上が嘘だったら役所に突き出してくれる」


 そう来たか。

 でも品質には自信がある。

 男は天然水を飲んだ。


「うんっ。むむむっ」

「どうなんだよ」


 別の客が結果を聞きたくて急かす。


「美味いな。蒸留水ではないな。これでも俺は料理人だ。味に嘘は付けない」

「俺にも売ってくれ」

「悪いな一日一本なんだ」


 俺だって天然水が飲みたい。

 湖の少し塩気のある水で我慢しているんだ。

 早くレベルアップしたい。


 さて、明日の売り物を探さないとな。

 その前に役所に行って明日の露店の場所代を払わないといけない。


「ひょひょひょ、上手くいったようじゃな」


 役所に行くとバラム寄って来た。

 この男は暇なのかな。


「ああ、おかげさまで」


 前の時もそうだったが、アルマがこの男に対して嫌悪感を隠していない。

 馬が合わないというやつだろうか。

 俺には無害で親切な初老の男に見えるんだがな。

 まあいい。


「先輩からの忠告じゃ、気を付けるがいい。ほっほっほっ」

「分かった心に留めておくよ」


 何に気を付けろというんだろうか。


 役所を出て露店を冷やかしながら大通りを歩く。

 これと言って面白い商材はないな。

 俺はある露店でそれを見つけた。

 ダチョウぐらいの玉子だ。


「この玉子はいくらだ」

「おっ、買うのかい。これはね、銀貨2枚だよ」

「高いな。玉子はみんな高いのか」

「砂漠は鳥が少ないんだ」

「そうなのか。邪魔したな」


 次の売り物が決まった玉子だ。

 100魔力で10個が買える。


「バラムの糞野郎。うぃー」


 酔っ払いが歩いている。


「おっと」


 よろけた酔っ払いを通行人が支える。

 通行人は酔っ払いを優しく道端に座らせた。


 俺は酔っ払いを踏まないように脇を通り過ぎた。

 100メートルぐらい行ったところで、後ろから悲鳴が上がる。

 なんだ。

 気をつけろとはこの事か。

 振り返ると女性が酔っ払いを揺さぶっている。

 むっ、ゲロでも吐かれたか。

 少し神経質になっているようだ。

 俺は宿を求めてその場を立ち去った。


 宿は大通りから一本奥に入った通りにずらっと並んでいた。

 客層がまともな所で、かつ裕福でなさそうな人が泊まっている所を選んだ。


「泊まりたい」

「二人だと銅貨30枚だ」

「泊まるのは俺一人だ。彼女は帰る」

「なら、銅貨15枚だ」


「ではそれで」


 部屋は大部屋だった。

 うわ、ノミが居そうだ。

 これは気を付けないとな。

 扉が開けられた時に廊下にチラッと男が見えた。


 男は酔っ払いを座らせたあの男だった。

 奇妙な偶然だな。

 あの男もここに泊まるのか。

 まさかスリではないだろうな。

 アイテムボックスがあるから金品の心配はないが、金がないと逆上する物盗りは外国では良くある。

 少しばかりポケットに硬貨を入れておこう。


「アルマ、今まで色々とありがとう」

「ほな、さいなら」


 アルマが居なくなり部屋の人間の会話が分からなくなる。

 いくつか覚えた単語を耳が拾う。

 翻訳なしに話せるようになるのは遠いな。


 ペットボトルをアイテムボックスから出して湖の水を飲む。

 うわ、うっすらと塩味がする。

 そして少し臭い。

 これに砂糖と果物の汁を入れてなんちゃってスポーツ飲料に出来ないかな。

 後で考えてみよう。


 俺は何時の間にか眠りに落ちた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る