第234話 おっさん、野営する

 乗合馬車は野営地に着いた。

 俺達も野営の準備に入る。

 約束通り、アニータにはウィンナーと野菜の炒め物を出してやった。


「このぷりっとした食感と噛んだ時に溢れる肉汁が堪らん」


 満足してくれたようでなによりだ。

 俺はブラッドソーセージと野菜の炒め物を食った。


「頂き」


 アニータが激辛ブラッドソーセージにフォークを刺して口に入れた。


「うがぁ、何と言う激辛。はひー、はひー」

「ほれ牛乳だ」


 牛乳のコップをひったくるように取ると、一気飲みした。


「牛乳のまろやかさで辛さが緩和されていく。これはこれでありなのかも」

「ゲテモノを食べるようになったのね」


 ジャスミンが不思議な物をみるような目で俺を見た。


「ああ、このソーセージにはまってる」

「見張りの順番を決めないと」

「それならポチが夜通し起きている。俺達は寝ていても平気だ」

「確かにアンデッドなら、眠らないからぴったりだけど。信用できるの」

「信用してくれ」

「あなたが言うのならね」


 敷物を敷いてごろりと横になる。

 俺は隣で寝ている二人が寝入ったのを見て起きだす。


「ポチ、警護を頼む」


 ヒャッハー、ヴァンパイヤの時間だ。

 街道沿いに歩きモンスターを狩る。

 オラオラ、どんどん掛かって来い。


 モンスターを倒しては血を絞る。

 明日進む日程の街道沿いのモンスターは粗方片付けた。

 俺は夜が明ける前に血をたっぷり飲み、野営地に何食わぬ顔で戻った。


「ムニ、どうしたの」

「悪い起こしたか。トイレだ」

「そう」


 ジャスミンがあくびを一つしてまた眠りに入った。

 粗方のモンスターは倒しているので、野営地にトラブルはない。

 ポチはどことなく不満気だ。

 活躍できなかったのが悔しいのかな。

 それとも、狩に連れて行かなかったのが、不満なのかな。


 俺は一睡もしないまま朝を迎えた。


「朝食はウィンナーを要求する」

「目玉焼きに添えてやろう。目玉焼きは醤油かな。塩かな。意表をついてケチャップか」

「お勧めは」


「醤油だな」

「ではそれで」


 目玉焼きを焼いてジャスミンとアニータに振舞う。

 ウィンナーとブロッコリーを添えた。


「うはー、このショウユの香ばしさは堪らん」


 アニータは満足してくれたようだ。


「不思議な調味料ね。どこの国の物かしら」

「そこは秘密だ」


 朝食を終え、乗合馬車は出発した。

 俺達はその後を追う。


 しばらく何事もなく進み。


「おかしいわ。モンスターが出ないなんて」

「そんな日もあるさ」


「大物が出る予感」


 残念だが、アニータよそれは外れだ。

 ところが遠吠えが聞こえてきやがった。

 フェンリルじゃないだろうな。


 俺はスクーターのアクセルを吹かすと乗合馬車の前に出た。

 街道に出て来たモンスターは赤黒い毛並みに吐息からは炎が見えた。

 ヘルウルフと呼ばれているモンスターだな。


 俺がモンスターを狩り過ぎてこいつをおびき寄せてしまったらしい。

 俺はスクーターから降りるとヘルウルフに近寄り、ヒートタッチした。

 爆発するヘルウルフ。

 体内に可燃物を持っているなんて、火薬庫を抱えているような物だ。

 加熱すれば自爆するのは明白だ。


「ヘルウルフをどうやって倒したの」

「魔導を使い過熱した」

「そう。魔導士だったのね。あなたの属性は」

「土魔導士だ」

「やってみてよ」


属性魔導アトリビュートマジック、冷えろ」


 地面にぼこっと穴が開き、ジャスミンが冷えたはずだ。


「寒いわ」

「そうだろ。納得してくれたか」


 この種明かしはこうだ。

 属性魔導は発動していない。

 ドレインタッチで冷やした。

 土は小声でアイテムボックスを発動して収納した。


「何か納得できない。小声で何か呟いたわよね」

「ああ、単なる癖だ」

「そう、今は納得してあげる」


 何やらジャスミンには確信があるようだ。

 まあ、スクーターを出したからな。

 かなり疑われても仕方ない。

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