第235話 おっさん、正体がばれる

 深い森に差し掛かったところ、目当ての盗賊が出て来た。

 さてとお仕事しますかね。


属性魔導アトリビュートマジック、刃よ回転して切り刻め」


 俺があげたダイヤモンドカッターの刃をジャスミンとアニータはまだ使っているらしい。

 盗賊が鎧ごと切断されていく。

 楽勝だな。


 俺の出番は無いようだ。


「ポチ、適当に盗賊と遊んでやれ」


 ポチを参戦させると、盗賊は大混乱に陥った。


「お頭、不味いですぜ」

「あれを持ってこい」

「あれですか。死にそうな時以外には、使うなって言われてませんでしたっけ」

「馬鹿野郎、いまがその時だ」


 手下が箱を開ける。

 おい、その輝きは不味いだろ。

 よりによって聖杭ミスランターかよ。


 ポチが危ない。


「ポチ、ホーム」


 その時何を思ったのか盗賊の手下は聖杭ミスランターをジャスミンに向かって投げた。

 間に合うか。

 俺はジャスミンの前に立ちふさがった。


 聖杭ミスランターはヘルメットに当たり爆発を引き起こす。

 あー、食らってしまった。

 コアは現在、下腹にある。

 問題は頭の半分が抉れたって事だ。


 人間なら致命傷、間違いなし。

 誤魔化しようがない。

 ヘルメットは吹き飛んだしな。


 俺はアイテムボックスから血を出すと飲み始めた。

 急速に傷が元通りになる。


「やっぱり、ムニだったのね。人間を辞めているとは予想外だわ。通りで朝方、野営地に血の匂いをさせて帰ってくるはずだわ」


 あれを気づかれていたのか。


「すまん、こんな訳で人間とは仲良くできない」

「モンスターになってもムニはムニだよ」

「アニータ、感動の再会より、先に盗賊を片付けよう」


 俺は抜き手で盗賊達の心臓を貫いて回った。

 頭目だけは生かしてある。


 聖杭ミスランターをなぜ一介の盗賊が持っていたのか、非常に気になったからだ。


「ひっ、化け物」

「そうだ、化け物だ。血を吸われてヴァンパイヤになりたくなければ、素直に答えるんだな。聖杭をどこで手に入れた」

「人を買ってくれる役人から、ピンチになったら使えと渡された」

「よくあるのか」

「いいや初めてだ。俺も気になったが。何百人も人をさらったから、重要視されていると思った」

「役人の名前は」


 その時矢が飛んできて盗賊の頭目に刺さった。


「ポチ、行け」


 ポチが森の中に駆け出して行く。

 しばらくして悲鳴が聞こえ、口を真っ赤にしたポチが帰ってきた。

 用意周到な事だ。

 たぶんポチが殺した殺し屋は何も知らないだろう。

 頭目が捕まったら口封じしろとだけ言われているに違いない。


「ムニ、包み隠さず教えて」

「改革が成功した後に転移の罠に掛かった。モンスター退治をやらされて、奴隷にされた。もちろん逃げ出そうとしたが、殺された。そして、アンデッドになった」

「もう、人間には戻れないの」

「いや一度だけ人間に戻れる。だが、今、戻っても殺される可能性大だ」


「なーんだ。心配して損しちゃった。人間に戻ったら、改革が進んだ国を見てもらわなきゃ」

「とにかく今は人間に戻れない。二人とも国へ帰るんだ。俺が暴走して二人を手に掛ける事もあり得る」

「脅しても駄目よ。この国も改革するんでしょ。手伝うわ」

「アニータも手伝うよ」

「仕方ないな。言って聞くような気がしない。一緒に行動しよう」


「懐かしいわね」

「ダンジョンにはよく行ったなぁ。山下りは面白かった。最近は面白い事がないので、あきあきしてた」


 問題は乗合馬車の乗客に俺がモンスターだとばれているって事だ。


「耳を」


 俺は耳打ちした。


「ヴァンパイヤとしてよみがえった仲間を今、葬らん」


 ジャスミンが杭を心臓の場所に打ち込んだ。

 俺はヴァンプニウムをアイテムボックスに入れ、骨になって横たわった。

 コアは頭に移動してある。

 ぱっと見は白骨死体だ。


 乗合馬車の乗客は穢れると思ったのか近づいてこない。

 しばらくして乗合馬車は出発した。

 俺はそれを見送ってからヴァンプニウムを纏った。


 ヘルメットがトレードマークみたいになっているから、それを辞めよう。

 そうすれば街で偶然俺を見かけても気づかないはずだ。


 さて、どんな変装にしよう。

 目出し帽は不気味だな。

 ホッケーマスクもちょっとな。

 ピエロのマスクのイマイチだな。


 ああ、そうだ。

 風邪をひいた時にするマスクにサングラスでどうだ。

 犯罪者が良く使う手口だ。

 きっと人相を上手く誤魔化す事ができるはず。

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