第230話 おっさん、砦に侵入する

 夜になった。

 ヴァンパイヤの時間だ。


「では行ってくる」

「俺も壁をよじ登る技術を覚えようかな」


 爪をかぎ爪に変形させて石の壁の凹凸に引っ掛ける。

 ヴァンパイヤのパワーがあればよじ登るなど容易い。

 猿のようにするすると上がり塀の上に出た。

 塀の上は通路になっていて弓や魔導を放てるようになっている。

 灯りを持った見回りの兵士が歩いてくる。

 俺は体を平に変形させた。

 もちろん鉄の骨は抜いてある。


 兵士が俺を踏んで行き過ぎた。

 アイテムボックスからロープを出して、背後から襲う。

 首を絞めて死体をアイテムボックスに入れた。


「おい、見張りの兵が居ないぞ。さてはさぼってどこかで寝てるな」


 見回りの兵士が帰って来ないのを不審に思って探しに来たのだろう。

 まだ、潜入はばれてないが、時間の問題だな。

 迎え撃つ場所はどこが良いだろうか。

 塀の上は却下だな。

 下から狙い撃ちされる。

 魔導を撃たれると俺の防御力でもダメージになるな。


 各個撃破できる場所で立てこもりたい。

 兵舎はどうかな。

 部屋が沢山ありそうだから、居場所を変えていけば各個撃破できそうだ。

 よし、兵舎に侵入しよう。


 兵舎の扉の隙間から、霧になって入る。

 衣類をヴァンプニウムで作れればもっと便利だが、俺の熟練度ではまだ無理だ。


 真祖ヴァンパイヤの能力でコアが扉を突き抜ける。

 真祖ヴァンパイヤの能力でもコアが透過できるのは短時間だ。

 コアは謎物質だ。

 潰せるのに物をすり抜ける事も出来る。

 霧で出来たボールというのが近いだろうか。


 アイテムボックスから衣服を取り出して身に着けた。

 力を使って消耗したので血を飲む。

 うがいする事も忘れない。

 さてやるぞ。


 大部屋から攻略する。

 兵士の装備を見つけたので、兵士に化ける。

 大部屋に並んでいる寝台のそばに立ち、寝ている兵士に冷気のドレインタッチをする。

 簡単だな。

 うめき声すら出さないで眠ったまま次々に凍死していく。

 大部屋は片付いた。

 次は士官がいるであろう個室だな。


 何だ鍵を掛けてないぞ。

 有事の際に素早く出られるようにする為か。

 士官全員を凍死させていく。

 残った兵は夜勤と砦の幹部達だな。


 幹部達には見張りや、世話係がついているかも知れない。

 さてどうしよう。

 幹部達を殺せれば命令系統が麻痺するはずだが。


 魔導でクロロホルム充満あたりが妥当か。

 今の俺の体ならクロロホルムは効かない。

 存分に使えるはずだ。


 幹部の住居の見張りを倒し、入口に立つ。


属性魔導アトリビュートマジック、クロロホルム合成」


 塩と水と炭でクロロホルムを合成した。


「何だこの匂いは」

「吸うな。毒だ」


 中は大騒ぎになった。

 全員麻痺したか、死んだと思われたので、扉を蹴破る。

 まだ、息のある兵士を殺して回る。


 はっ、何やってんだ俺。

 まず確かめるのはステアの安否だろう。

 殺して回るのはその後だ。

 俺はどうにかしてしまったらしい。

 不味いな。

 俺はステアの血の匂いを探した。


 幹部の住居の中から漂ってくる。

 俺はそこに急いだ。

 そこにあったのは寝台の下に隠された血で書かれた布切れだった。

 俺は別にほっともしなかった。

 良かったとも悪かったとも思わなかった。


 布切れには森の秘密基地とあった。

 森の秘密基地とは子供が作りそうな名称だな。


「敵襲! 敵襲!」


 皆殺しの予定だったが残念だ。

 引き上げよう。


 布切れをアイテムボックスに入れると、幹部の部屋にある物を片っ端からアイテムボックスに突っ込んだ。

 兵士達が剣を持って踏み込んで来る。

 俺は心臓を抜き手で貫いて回る。

 血が飲みたい。

 俺はアイテムボックスからモンスターの血を出して飲んだ。

 返り血で真っ赤になった衣類を脱ぎ捨て、アイテムボックスから2リットルの天然水を出して頭から被る。

 衣服を身に着け、砦の壁に走り寄る。

 爪をかぎ爪にして、壁を登り飛び降りた。


「ステアは!? おっさん、ステアは!?」

「手がかりだけだ」

「そう」

「たぶん次が最後だと思う」


 森の秘密基地の場所が、幹部の部屋にあった荷物に、記されているといいがな。

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