第216話 おっさん、警備する

「済まん。顔を見せてくれるか」

「ああ、ほらよ」


 俺はヘルメットのスモークシールドを上げて顔を見せた。

 乗り合い馬車を借り切って窓に目張りしてその中に俺はいた。


 現在の変装は手足に包帯。

 服を着て、目にはブルーのカラーコンタクト。

 頭にはフルフェイスのヘルメットだ。

 これが昼移動する為の方策。


「紫の瞳とは変わっているな」

「そうかな。早くしてくれ。風に当たると辛いんだ。特殊な体質でな」

「悪かったな」


 ポチの体はアイテムボックスの中だ。

 コアは背負いの中に入っている。


 俺は急いで宿を取りクローゼットの中に入った。

 暗闇が心地いい。

 少し眠くなった。

 うとうとして日が暮れる頃に目覚めた。


 ヴァンパイヤって眠れるのだな。

 さあ、活動の時間だ。

 日が暮れた街を歩く。

 暗闇でも日中と変わらなくはっきりと物が見える。

 ギルドに行くと、依頼が終わった冒険者が列をなして受付に並んでいた。


 列に加わり大人しく番を待つ。


「どういったご用件でしょうか」

「登録をしたい」

「出身地の証明はございますか」

「スラムの出なんで無いな」

「分かりました。では必要事項を紙に書いて提出して下さい」


 俺は適当に書いて提出した。


「顔を見せて貰えますか」

「ああ、いいぜ」


 シールドを上げる。


「変わった形の兜ですね」

「病気というか体質でね。風に当たると体調を崩す」

「そうですか。Fランクからになります。ご活躍をお祈りしています」


 タグを受け取って首に掛ける。

 他の冒険者の値踏みする視線が刺さる。

 だが、誰一人として喧嘩を売ってこない。

 何でだろうな。


 依頼を受けてみるか。

 夜警の仕事があった。

 俺はその依頼書を剥がして受付を済ませた。


 依頼場所の倉庫は夜という事もあり人っ子一人いない。

 倉庫の扉を叩く。


「依頼で来た」

「今夜も徹夜だと思ったよ。助かった。今開ける」


 扉越しに返事があった。

 扉が開き貧相な中年が現れた。


「仕事は簡単だ。泥棒が来たら、ぶちのめせば良い。寝さえしなければ良いだけだ」

「分かった」

「俺は守衛室のベッドで寝てるから、判断に困ったら起こせ」


 そう言うと男は入口脇の扉に入っていった。

 起きているだけなら、簡単だが暇だ。

 携帯ゲーム機でも魔力通販で買って楽しむか。


 俺はゲームをやり始めた。

 アクションゲームをやったらノーミスでエンディングまで行ってしまった。

 反射神経がだいぶ強化されているな。

 RPGでもやるか。


「ちゃんと、起きているな」


 男が起きて来て、俺に声を掛けた。


「眠ってなかったのか」

「トイレに起きただけだ。ところで手に持っているそれは何だ」

「古代の発掘品だ。まあ、娯楽の品だ」

「今度、貸してくれ。警備中は暇なんでな」

「ああ、帰る時に置いていってやる」

「恩に着る」


 そう言ってから、男はトイレに入って行った。

 男が再び眠りに入ってから、数時間後。

 扉の止め金をカチャカチャやる音が聞こえる。


 泥棒が多いのかな。

 止め金は外れ、布で顔を隠した男達が入ってきた。


 俺はトイレのすっぽんで叩いた。

 男は反撃する間もなく沈んだ。

 残りは衝撃波で壁に叩きつけた。


 頭を打った傷口から出る血を見て、渇きが疼く。

 俺はアイテムボックスから血を出して飲んだ。

 口を拭ってマウスウォッシュでうがいする。

 血の臭いは消えただろうか。


 そう言えば泥棒をどうするのか聞いてなかった。

 とりあえず縛っておけばいいか。


 夜が明ける頃合いになり、俺は守衛の男を起こした。


「朝か。まだ暗いな。変わった事はなかったか」

「泥棒が来た。縛り上げてある」

「そうか戦闘音がしなかったが、弱い奴だったのか」

「分からん。一撃だったからな」

「強いんだな」

「依頼達成のサインをくれ」

「ほらよ」

「これが古代の娯楽用品だ。使えなくなったら燃料切れだ。明日も来る予定だから、その時に補充してやる」


 俺は宿に戻ってクローゼットに入った。

 案外、不審に思われないのだな。

 疑う奴が一人ぐらいいると思ったが。

 血の渇きが出たら、ヴァンパイヤなら人を襲っているだろうからな。


 宿の人間には夜の仕事だとは言ってあるが、いつまでばれないかな。

 昼、部屋に入って俺が居ないのに気づいてクローゼットを開けないとも限らん。

 家でも借りた方がいいな。

 ギルドで相談してみよう。

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