第215話 おっさん、救助をする

『モンスター使いの手の者だ。俺は不死身だ。救援したい』

「早く助けてやってくれ」


 土砂と岩を乗り越え馬車の近くに寄る。

 ドンドンと扉を叩く音がした。

 まだ生きているのか。

 扉が開かなくなっているのだな。


 待ってろ。

 魔導を使ってダイヤモンドカッターの刃を操り扉を壊す。

 良かった何人かは助けられた。


「あ、ありがとう」

『早く安全な場所へ』


 逃げるように馬車の人間達は去って行った。

 俺が怖かった訳ではないと思いたい。

 土砂に埋まった馬車を助け出そうと頑張ってみた。

 しかし、スケルトン一人のパワーでは如何ともしがたい。

 ユンボの運転が出来ないのが悔やまれる。


 土砂と岩は今も落ちて来る。

 土砂の隙間から見える馬車の一部をハンマーで叩く。

 中からコンコンと叩く音が聞こえた。

 生きているのか。


 力が欲しい。

 絶大な力が。

 ふとヴァンパイヤならどうだろうか考える。


 スケルトンより身体能力は上だ。

 しかし、今は昼間でヴァンパイヤにとっては苦難の時間になる。

 何か塗料で体を塗ったら日光を防げないだろうか。


 やってみるまでだ。

 保存しておいたヴァンプニウムを身に纏う。

 日光にさらされた肌が白煙を上げる。

 白いペンキを頭からかぶる。

 幾分、劣化は治まったものの、やはり確実に劣化している。


 ぼやぼや、してられない。

 レベル80超えのヴァンパイヤパワーで馬車を掘り出した。


「ありがと」


 馬車からあの道でひかれそうになっていた少年が現れ言った。

 一緒に助かった大人達は、煙を上げる俺を気味悪そうに見ていた。


「崩れないうちに、安全な場所に避難するんだ」


 俺はヴァンプニウムをアイテムボックスに保存すると、逃げるように現場から立ち去った。

 スケルトンになっても渇きの余韻が残っている。

 俺はどうすべきなんだろうか。

 皇帝に復讐するという目的を達成するのなら、ヴァンパイヤ方が容易い。

 しかしだ、渇きという問題がある。


 いっそ、人間に戻るべきだろうか。

 俺の選択肢は三つ、スケルトン、ヴァンパイヤ、人間。


 スケルトンは人と上手くやれない。

 力は三つのうち真ん中。


 ヴァンパイヤは夜なら人の生活にとけ込める。

 力は最強。


 人間は人と上手くやれる。

 だが、力は弱い。


 俺は協力者を見つけてスケルトンとしてやっていくべきなのか。

 それが無難だが。


 今は昼なので夜まで隠れていようと森に入った。

 ゴブリンの狩りをする時の声がする。

 誰か襲われているのか。

 ゴブリンから必死になって逃げている少女を見つけた。


 俺とポチは少女を助けてやった。


「なぜ、助けてくれたの。あなたモンスターでしょう。そんなに痩せた人はいないわ」

『分からない。なんでだろうな』

「ごめん、文字は読めないの」


 文字が読めないのでは会話にはならないな。

 ヴァンパイヤになれば会話は可能だが。

 渇きに負けてこの少女を襲わないとも限らない。


 俺は静かにその場を離れた。


「ばいばい、優しいモンスターさん」


 俺は森の中で考えた。

 何で助けたかだ。

 それは人間だからだ。

 モンスターの体でも心は人間。

 それは譲れない。


 俺は決意した。

 ヴァンパイヤになろう。

 生贄を阻止するためにはヴァンパイヤしかない。

 別に全て人を助けたいとかは思わない。

 しかし、視界に死にそうな人間がいたら助けるのが人間だ。

 帝国が生贄や奴隷をやっている事実を知って、知らないふりを出来ない。


 俺の心は人間だ。

 渇きがなんだ。

 人間の心を失わない限り俺は平気だ。


 昼はスケルトン、夜はヴァンパイヤになる事にした。


 血を集めないと。

 近場のウルフやオークを狩ってポリタンク10個分の血液を集めた。

 これだけあれば当分は大丈夫だろう。


 夜になりヴァンパイヤになる。

 保存していた血を飲んだ。

 甘い。

 体が歓喜に震える。

 叫びたい衝動に駆られてそれを抑える。

 俺は人間だ。


 さて、街に行きたいが。

 夜は門が閉まっている。

 城壁を乗り越えるのもこの体なら容易いが、毎回それをやると正体がばれそうだ。

 この難題を解決しないとな。

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