第214話 おっさん、ヴァンパイヤになる

 俺はヴァンパイヤになるべきだろうか。

 とりあえず、ヴァンパイヤになってから考えよう。

 ヴァンパイヤ成分を取り出して金属支配する。

 これっぽっちでは全然足りない。


 ヴァンパイヤ成分って何なのかこれを調べる事が近道だと思う。

 材料が血液って事は分かっている。

 俺はヴァンパイヤ成分をヴァンプニウムと名付けた。


 血液を与えてみたらどうなるかな。

 ウルフが夜の街道にのこのこ現れたので、叩きのめして血を絞って、ヴァンプニウムに与えてみた。

 増殖するヴァンプニウム。

 俺は血を纏ったアンデッドになった。

 骨は鉄製だ。

 だが、目が見えない。


 血は目の代わりをしないのだな。

 皮膚と髪の毛も出来ないものな。


 保存しておいた俺の骨を一本与えてみる。

 みるみる皮と髪の毛が出来た。

 眼球も出来たらしい。


 骨の遺伝子情報が必要だったのか。

 血じゃ駄目なのか。

 まあ良い。

 仕様に文句を言っても始まらない。


 俺は渇きを覚えた。

 もっと血が欲しい。

 やばい、ヴァンパイヤ特有の食欲か。

 体を金属支配で調べると、ヴァンプニウムが少しずつ劣化していくのが分かる。

 絶え間ない渇きに襲われるのもこれが原因か。


 鉄分が入ったビタミン剤を食べるが、渇きは収まらない。


「うぉー、喉が渇く」


 久しぶりに声を出したが嬉しくない。

 スポーツドリンクを飲むが、渇きは一向に収まらない。


 駄目だ。

 獣になっていくような気がする。

 ヴァンプニウムの金属支配を解いて、容器に入れアイテムボックスに仕舞った。

 うん、ヴァンパイヤは無理。

 どうしたものかな。


 ヘモグロビンを摂るしかないのか。

 血を摂るのは嫌だ。

 特に人間のはな。


 人間の振りをするのはヴァンパイヤになるしかない。

 ミイラ男なら別だが。


 俺はしばらく骨で旅をする事にした。

 鎧と服は着ているから、ぱっと見は大丈夫なはずだ。

 野営している馬車の列がいるな。

 男の子が一人、目を擦りながら道に出て来た。

 慌ててブレーキを掛ける。


『こら、急に出てくると危ないぞ』

「変な頭で、体がガリガリだ。骨のワンちゃんも一緒だあ」

『夢を見たんだ。忘れろ』


 そう書いて、俺はゆっくりとなるべく静かに走りだした。

 ヴァンパイヤではないが、昼の行動は控えるべきだな。


 夜明けが近くなったので、スクーターをアイテムボックスに仕舞い、森に入った。

 暇だ。

 ジェマといる時はクローゼットの中にいても暇だとは感じなかったのにな。


『ポチ、リバーシしないか』


 ポチは答えない。

 字は分からないか。

 詰まらん。


 俺が孤独を感じるとはな。

 ヴァンプニウムを少し出して性質を調べる事にした。

 銀を押し付けると急速に劣化する。

 なるほどな。

 ヴァンプニウムっていうのは魔鉄の一種なのかもな。

 魔力を含んだ鉄。

 ただ血でないと増殖しないのが問題だが。


 血に含まれる金属と言えばヘモグロビンだ。

 化学式を辞典で見たが、こんな複雑なのは魔導でも合成する自信がない。

 実際やってみたが駄目だった。


 夜が明ける。

 ヴァンプニウムを日光にさらす。

 やはり急速に劣化した。


 他に弱点とかないのかな。

 無いのだろうな。

 軍隊に討伐を頼む化け物だからな。


 日が高く昇り、街道を早馬が駆けてきて、俺の近くでこけた。

 馬が限界だったのだろう。

 乗っていた人は大丈夫だろうか。

 傷治療のポーションを飲ませて立ち去ろう。

 そう決めて、傍に寄ると既に亡くなっている。

 手を合わせて懐を探ると手紙があった。

 『崖崩れで馬車が立ち往生している。何台かは生き埋めになった。至急応援を』と書かれていた

 この手紙を届けるべきだろうか。

 どこの誰に届けるのかも分からないのにか。

 俺の姿ではどうにも出来ない。

 粘土で変装するのは一人では面倒だ。

 誰かにやってもらわないと。


 ヴァンパイヤの姿ならどうだ。

 だが、夜限定ではな。


 崖崩れの現場には行けるだろう。

 だがスケルトンが一人で行って何になる。

 悩むのは後で良い。

 とにかく現場に行ってみよう。

 スクーターを走らせ渓谷に差し掛かった。

 岩がゴロゴロ落ちていた。

 馬車が何台か潰されていて、両端を岩で塞がれて前進も後退も出来なくなっている。

 馬車を捨てて逃げた人はいるようで、呆けたような表情で座り込んでいた。


 俺を見ても騒ぐ気力が無いようだ。

 これは都合が良い。

 俺を受け入れてくれる人間が助け出した中にいるかもな。

 情けは人の為ならずだ。

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