第167話 おっさん、気体魔導士会を作る

 男女が3人スラムの住居に訪ねて来た。

 こいつらはスラムにいたヘリウム属性だ。


「こちらだとジャスミンさんに伺ったので、ヘリウムもらいに来ました」

「おう、ちょっと待て」


 そう言えば気体の魔術師ってどれぐらい強いんだ。


「試しに的に向かって火の玉を発射してほしい」

「いいですよ」


 スラムの空き地で属性魔導を使い、土の壁を作る。

 土の壁にコピー用紙を貼った。


「やってくれ」

属性魔導アトリビュートマジック、火の玉よ飛べ」


 風船が一つ破れ、10センチ大の火の玉が飛ぶ。

 そう言えば俺もどれぐらい大きいのが撃てるか試した事がなかった。


属性魔導アトリビュートマジック、火の玉よ飛べ」


 チタン片を触媒に魔導を発動する。

 1メートルほどの火の玉が飛ぶ。

 うん、10倍か。

 そりゃ、気体の魔導士がザコ扱いされる訳だ。


 ネオン属性とかも可哀そうだな。

 ゴブリンは倒せそうだが、どうなんだろ。


「ゴブリンとの戦いはどうだった?」

「ええ、楽勝でした。石を投げてきたんで、魔導で投げ返してやりました」

「私は水筒の水を操って窒息させました」

「俺は持ってた矢を魔導で飛ばして仕留めたよ」


「戦い慣れているな」

「兵士の人に相談したんです。そうしたら、快く色々と教えてくれましたよ」


「ちょっと差別を感じるな。俺なんかオークだぜ。おまけに出て来たのはハイオーク。差別だよな」

「気体と液体の魔導士はゴブリン退治らしいですよ。固体はオークが定番だとか」

「えっ、差別じゃなかったのか」


「ええ、だって、さっきの火の玉を見たら、それぐらいの差がないと」


 なんだよ嫌われていなくて良かった。

 魔導士全員を敵に回したい訳じゃない。

 でも俺の見届けの魔導士は悪意があったような。

 たまたまという事だな。


「見届け役の魔導士は感じが良かったか?」

「いいえ、最悪でしたね」


 そこは一緒か。


「何でだろな」

「我々を詐欺師だと思っているらしいですよ」

「私も言われたわ」

「俺も言われた」


 奴らにしてみたら、長年にわたってしてきた試験の方法なんだろうな。

 それが間違っていると認めたくないのだろうな。


「お前ら、気体魔導士会を作れ」

「それは素晴らしいですね。空気魔導士は不遇ですから、簡単に手を組めそうです」


「それとネオンとアルゴンとクリプトンを仲間に入れてやれ。どっちも無害だから、風船を間違って破っても被害がない」

「触媒の用意が大変そうですね」

「ネオンとアルゴンとクリプトンは空気に含まれている。まあ割合的には少ないが」

「ヘリウムが不遇過ぎます。ネオンとアルゴンとクリプトンに馬鹿にされそうです」


「それは可哀そうだが今のところ解決策はない」

「そんな」


「問題はそれらの抽出を誰に頼むかってところだ。空気魔導士に頼む手かな」

「それじゃ、空気魔導士が一番で二番がネオンとアルゴンとクリプトンでヘリウムは最下層って事になりますよね」

「会の規則で序列なしってしておくのだな。文句を言ってくる奴がいたら、固体に勝てるのかよと言ってやれ」

「そうですね。金属魔導士なんかには逆立ちしても勝てない」

「そうだろ。気体同士で争っても何にもならない。団結しないとな。三人の誰かがトップをやれ」


「では私、モーガスが」

「規約は入る者拒まず、去って行くもの追わずだ。理念は気体魔導士の地位向上と差別撤廃だ」

「それは、いいですね」


「触媒は出来るだけ用意してやるから、無駄遣いするなよ」

「その他の活動はどうしましょう。ゴブリン退治の強制依頼はこなしますが、それだけだと手持ちぶたさです」

「そうだよな。地位向上するには役に立つところを見せないとな。寒村を回ってボランティアでゴブリン退治だ」

「それならできそうです」


「空気魔導士と組ませればネオンとアルゴンとクリプトンは持久戦無敵だな」

「それだと空気魔導士単体の方が強いですよね」

「ちょっと待て」


 たしかに触媒を作って攻撃より、空気を触媒にした方が手っ取り早いな。

 待てよ、空気魔導士の窒素属性も抽出してからの方が強い。

 手間は一緒だな。

 ただ空気中に含まれる割合は窒素が圧倒的に多い。

 窒素魔導士強いな。


 百科事典をめくる。

 確か鉱物だと窒素は硝石に含まれるんだよな。

 この国には硝石の鉱脈がないのか。

 地球でも限られた場所しかなかったような。

 魔力通販で硝石は買えないな。


 肥料だと硬くないし、ほとんど粉だし。

 威力はお察しだ。


 硝石は作れるけど糞尿と戯れるのは遠慮したい。

 亜硝酸ナトリウムとかは毒性も少ないので触媒にできるが、大きい結晶にするのが手間だ。

 結晶化はいまのところ魔導では出来ない。

 出来ていれば触媒問題が無くなってダイヤモンド魔導士が大活躍だ。

 化合はできるのに結晶化が出来ないのは謎だ。

 とにかく粉でも気体よりましか。

 亜硝酸ナトリウムを餌に空気魔導士を釣るか。


 待てよ。

 塩は水に溶けるな。


属性魔導アトリビュートマジック、亜硝酸ナトリウムを化合しろ」


 塩と空気で亜硝酸ナトリウムを作った。

 そんでもって。


属性魔導アトリビュートマジック、亜硝酸ナトリウムよ水に溶け結晶化しろ」


 おお、結晶化した。

 ということはダイヤの生成は高圧と高温を掛けないと駄目って事か。

 触媒が物凄くいるんだろうな。

 それはとりあえずおいといて。


「この結晶を持って空気魔導士を口説いて来い」

「分かりました」


 これで気体魔導士会は結成できるだろう。

 こいつらは差別をなくすデモとかやる時の賑やかしだな。

 亜硝酸ナトリウムは俺しか作れないのも良い。

 牛耳るのに丁度いい。

 これで宝石魔導士会、秘密結社、気体魔導士会が作れた。

 原理主義にも伝手が出来たし、着々と準備は進んでる。

 よし、やってやるぞ。

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