第154話 おっさん、再試験を受ける

 再試験の場所はスキルオーブの配布会場だった。

 スキルオーブの配布が終わり、人が居なくなってから会場に入った。

 やっぱり色々な金属や宝石が置いてある。


「秘境の土を持って来たのか。ご苦労な事だな。まずは身体検査だ。魔道具の類を持ち込む可能性があるからな」

「おう、存分に調べてくれ。俺の後に検査するアニータは女性兵士が担当してくれるんだよな」

「ああ、いくらがさつな俺達でも、女の子の体をまさぐったりしない。それが特に魔導士ならばな。ぶっちゃけ復讐が怖い」

「分かっているなら良い」


 服を脱ぐように言われ隅々まで調べられた。

 尻の穴まで調べられたら、大暴れする所だ。

 口の中ぐらいならお安い御用だな。


「よし、スキルを行使しろ」

「ああ、属性魔導アトリビュートマジック、火よ灯れ」


 持って来たチタンの粉が混ぜられた土がごっそり消える。

 チタンの割合が少ないと効率が悪いんだな。


「おお、都市伝説ってあったんだな。俺は3級市民の詐欺師が1級市民になりたくて、嘘を言っていると思ったぜ」

「よくあるのか」

「たまにな。だが、試験を受けるのは若い奴らだから、顔色を見ていれば不正は分かる。それに1級市民になればモンスター討伐の義務が課せられる。詐欺してもいずれはお陀仏さ」

「俺はこれで1級市民になれるのか」

「いや、モンスター討伐の試験を経て晴れて一級市民だ」

「そうか。世話になったな」


「いいって事を。さっきの効率じゃモンスター討伐は至難の業だ。死ぬなよ」

「死なないさ。故郷では三人の妻が待っている」

「なんだと、死んじまえ」


 笑いあってから、試験会場を後にした。

 しばらく待つとアニータが出て来る。

 表情は明るい。


「どうだった」

「ばっちり」

「よし、明日からはモンスター退治だ」

「頑張る」


 宿を取ろうとアニータに提案したが断られた。

 スラムじゃないと眠れないらしい。

 俺もなんとなくスラムの方が安心できる。


 一夜明けて朝になった。

 待ち合わせの門のすぐそばに行くと、見届け役の魔導士と兵士が既に来ていた。


「遅い。これだから詐欺師は」


 感じ悪い奴だな。


「よろしく頼む」

「よろしくね」


 返事が返って来たのは兵士からだけだった。

 魔導士は先頭の馬車に俺達は二台目の馬車に乗って、モンスターのいる場所を目指す。


 兵士達は馬に乗って馬車を先導した。


 尻が痛くなる以外はどうって事のない旅だった。

 しかし、窓の外の景色が田園から森に変わると、状況は変わった。

 外が騒がしい。


「ゴブリンが出たぞ」


 定番のゴブリンね。

 強いのかな。

 馬車の扉が叩かれる。


「ヒッグス様があなた達が始末するようにと仰せです」

「試験って訳じゃないのにな。アニータは出る必要はないぞ。じゃ行ってくる」

「うん」


 ゴブリンは10匹ほどいて兵士を警戒してこちらを睨んでいた。

 兵士が構えると、ゴブリンは投石を始めた。

 おー、作戦で負けているじゃないか。

 頭いいなゴブリン。


属性魔導アトリビュートマジック、風の刃よ飛べ」


 俺は風の刃を飛ばした。

 チタン板を加工して作った腕輪が切れて落ちる

 腕輪が切れて落ちたので拾って、サポーターの下に腕輪を挟む。


 初撃で半数のゴブリンが死んだ。

 ゴブリンは敵わないと思ったのか逃げ出した。

 やっぱり賢いな。


 腕輪は今少し改造が必要だ。

 無理に腕輪の形にしないでもいいのかも。

 カードの形にして素早く取り出せるのでもいいかな。


 兵士達がゴブリンから魔石を取り出し始める。


「俺はやらなくていいのか」

「魔導士になるお方にそのような事させられません」

「そう言えば兵士って2級市民なのか」

「ええ、上の方は1級市民ですけど」


 あらためて身分社会なんだなと思う。

 さしずめ1級市民は貴族ってところか。


 先頭の馬車の脇を通る時に、含み笑いが聞こえた気がした。


「詐欺の化けの皮をはいでくれる」


 そう続けて聞こえた。

 信用されてないな。

 都市伝説じゃ仕方ないか。


 次はアニータにも出て貰おう。

 ゴブリンの強さなら問題はない。

 危なくなったら俺も手伝えば良い。


 旅は順調に進み、一回目の野営地に着いた。

 野営地は炊事場があり、飼葉も用意されている。

 兵士達が忙しく馬の世話と食事の用意をする。


 楽なもんだな。

 至れり尽くせりだ。

 食事を終え、満天の星を見ながら焚火のそばで眠る。


 神秘的で綺麗だ。

 異世界でも星空は変わりない。

 あのパンを恵んでくれた子に、もう一度、星空を見せてやりたかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る