第135話 おっさん、森で対戦する

 行商しながら、待つ事3日。

 本屋から情報が入った。

 俺はその本屋に断りを入れて店の脇にゴザを敷いてどっかりと座った。

 竿の先には薬の旗。

 顔は包帯でぐるぐる巻き。


「薬屋さん。傷薬頂戴」

「はいよ。この軟膏を塗ると傷の治りが早い。ちなみに何で俺の所で買おうと思った」

「だって。包帯が綺麗なんだもん。薬が良く効くって事でしょ」

「なるほどね。この傷パッドもお勧めだよ。貼って炊事も出来る」


 薬屋が病気なんて設定は誰も買わないだろうと思ったら、頻繁に客が訪れる。

 病気なのに健康そうなのがポイントが高いらしい。

 よく効く傷薬を買う声が多かった。


 貼ったままで大丈夫な傷パッドと火傷の薬を勧めておいた。

 この火傷の薬は傷を早く再生させる成分が含まれている。

 これは日本の薬局でそう言われた。


 来たぞ。

 ヴィスだ。

 急いで店を畳む。

 そっと後を付けながら包帯を解く。

 しめしめ、気づいてないみたいだ。


 角を曲がって姿が見えなくなると走り出したい欲求に駆られる。

 駄目だ。

 走ったら足音でばれる危険がある。

 我慢だ。


 何回か角を曲がり大通りに出た。

 人込みなどが無ければ見失う事はないだろう。


 ヴィスが露店を冷やかす。

 俺も露店を冷やかしたり、実際に飲み食いした。

 横目でヴィスを追う事はやめない。

 発信機を取り付けられる隙があればな。

 そんな隙は微塵もない。

 もっともペット用の発信機では範囲も微々たるものだが。


 ヴィスはどこに行くつもりなのだろう。

 宿屋街は通り過ぎたし、下宿が立ち並ぶ一角も過ぎた。

 このまま行くと各ギルドの買取所や倉庫があって門があるだけなのだが。


 おや、門に向かうぞ。

 ヴィスはプロテクターに銃を肩に掛けているから狩に出られない恰好じゃないが。

 食料を買い込む姿はない。

 背嚢も背負ってないし。

 長期戦になったら困る装備だ。

 短期決戦で狩をするのかな。


 ヴィスは門を出た。

 検問の列にイライラする。


「失礼」


 俺は列を無視して、門をくぐろうとした。


「ちゃんと列に並べよ」

「生き別れの妹を追いかけているんだ。じゃまするな」


 実際は仇だが、俺の迫力に門番は黙った。

 俺は門番を振り払って街から出た。


 ヴィスはどこだ。

 双眼鏡で見ると、距離は離されたが、幹の隙間からチラチラとヴィスが見えた。

 良かった追いつけない距離じゃない。

 速足でヴィスの後を追う。


 都合が良過ぎる。

 上手くいきすぎだ。

 襲ってくれとばかりの対応だ。


 かなり森の深くに入ったと思う。

 俺はもうコンパスを見ないと都市の方向が分からん。


 モンスターの吠える声しか音が聞こえない。

 俺だったら、死地に誘い込んで尾行者を始末する。


 そう思ったらヴィスがいきなり走り出した。

 見失うものか。

 必死で後を追う。

 しかし、見失ってしまった。


「やっぱりね。ムニだと思ったわ。あんた執念深そうだから」


 森の中から声がする。


「逃げないのか」

「一生逃げ続けるなんて、真っ平よ。決着をつけさせてもらうわ」

「ダカードの行先について喋ってから死ね」

「冥途の土産に教えてあげるわ。私も彼の行先は知らない。ただね。彼は良い所のお坊ちゃんだわ」

「ほう、そう思う根拠は」

「殺人をしても許されると思っているからかしら。平民の命など屁とも思っていないんじゃない」


「お前達も同様だろう」

「私達は夢を見たのよ。一攫千金という夢をね。それにしても、あなたどうやって生き残ったの」

「分解スキルを使ってだ」


「そう、やっぱり取柄は大事にしないとね」


 俺の取柄は魔力通販だが、その事は黙っておいた。


「御託はもういいだろう」

「そうね、ケリをつけましょ」


 どうやら、戦闘開始らしい。

 俺は声のする辺りに鉄アレイを投げまくった。

 お返しとばかりに銃声がして額に着弾。

 俺は少しのけぞった。

 魔力壁がなかったら一発でアウトだな。


「ダンジョンのドロップ品。もしかして発掘品かしら」

「かもな」


 声のする方向に鉄アレイを投げる。

 静寂が辺りを支配した。

 さて、二人とも決め手はない。

 こうなれば長期戦だ。

 あっちは食料がないから、三日ぐらい徹夜すれば、俺の勝機が見えるだろう。

 だが、それだと逃げられる可能性大だ。

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