第131話 おっさん、街を発つ

 最後なので塩問屋に挨拶に行った。


「街を離れるので挨拶に来た」

「お前さんか、塩に海藻の粉を混ぜるのは凄く助かった。稼ぎの少ない所だと砂を塩に混ぜるのだが、それをなくす事ができた。今じゃ海草の粉を混ぜている。救われた塩職人の数は膨大だ」

「おう、良かったな。今度来るのは一年後だ」

「その時はぜひ寄ってくれ。一席もうけさせてもらう」

「じゃな」


 俺がやった事で救われた人もいるんだな。

 少し報われた気がした。


 パティと調味料を配りに料理店を回る。


「おお、あんたか。もう来ないと思ったぜ」

「立つ鳥は跡を濁したら、いけないと言われた。一年分ぐらい置いていく。開封しなけりゃ持つと思うが味が変わったら捨ててくれ」

「そうか悪いな。追加は持って来てもらえるのか」

「ああ、一年に一回は寄るつもりだ。どうしてもの時はギルドに伝言を入れてくれ」

「そうするよ。旅の安全を祈っている」


 料理人が手で十字を切るような仕草をする。


「ありがとな」


 料理店を回る途中、発掘品の露店を冷やかす。


「これガラクタよ。買ったら損するわ」


 パティが商品を見てそう言った。

 並べられているのはみんなガラクタらしい。

 さすが発掘品を扱う商人だ。

 ぱっと見ただけで分かるとはな。


「お客さん困るよ。売れなくなっちまう」

「悪かったな。魔力駆動の心臓部を一つくれ」

「確かにそれは使えるわ。でも、なんに使うの」

「一つ謎を解き明かしたいと思ってね」


「お客さんは学者先生ですかい」

「いや商人だよ。ところでこの発掘品の数々はどういう品なんだ」


 俺は次々にガラクタを手に取った。


「この四角いのはコンロ。傘がついてる奴は灯り。拳銃みたいのは髪を乾かす奴で。四角い板はなんだっけな。忘れちまった」

「おう、ありがとよ。参考になった」


 それから、料理店を回る合間に発掘品の露店を冷やかす。


「何を考えいるの」

「いやなんというのかな。商材を増やそうと思って」

「見てるだけで、商材が増えるの」

「見聞を広めてるだけさ」


 俺達が広場に差し掛かると人がごった返してした。

 どうやら、罪人の処刑が行われるらしい。

 それは、俺達が捕まえた盗賊達だった。

 その中にジェリの姿もある。

 見物人にはマルコの姿もあった。


 もう諦めたのか。

 他の盗賊は悪態をついたり、泣き叫んでいたが。

 ジェリは悪態をつくこともなければ、泣き叫ぶ事もしない。

 マルコは処刑が始まる前にそっとその場を離れた。

 いたたまれなくなったのだろう。

 ジェリが盗賊になった一因は彼にもあるのだから、最後まで見るべきじゃないのか。


 声を掛けようとして辞めた。

 マルコが泣いていたからだ。

 幼馴染の一人が処刑されるのだから悲しいよな。

 鋼の意思を持った人間ばかりじゃないんだと改めて思った。

 こういうマルコの弱さがジェリを犯罪に走らせた。


 違うな。

 親方を殺さなければ、ジェリは一線を踏み越えるのに躊躇したはずだ。

 あの時から全ては始まっているんだ。

 俺の甘さが悪かったんだろう。

 マルコを責められない。


 ジェリの首に縄を掛けられ吊るされた。

 ああ、終わったな。

 心に一つ区切りがついた。




 料理店に調味料を配り終えてから、一人で組長の所へ顔を出した。


「こんちは」

「また来なさったね」


「今日で最後になると思う。いや、次は一年後だ」

「終わったのかい」

「ああ、ここでの色々は終わった。菓子をもってきた。子供達に分けてやってくれ」


 終わったな。

 街を出てビッグスクーターで風を切ると嫌な事が全て忘れられるような気がした。

 海から離れると潮の香りもしなくなって、ライニーアの事が過去の事になったように思う。


 街道の脇にビッグスクーターを停め、テントを立てる。

 薪を集め、焚火をして炎を見つめる。


 後二人だ。

 後二人でこの旅も終わる。


 パティに親方が殺害されたいきさつを話した。

 マルコの甘さに気づいたら、俺の甘さに気づいた。

 それがトゲのように心に刺さっている。


「なぁ、俺は甘かったと思うか」

「どうなんでしょうね。過去を悔やんでも仕方ないわ。進まないと。亡くなった方もそれを望んでいるはずよ」

「俺が金を補填しなけりゃ良かったんだ。そうすれば親方が金を持っているなんて誤解を受けないで済んだ。それに他力本願がいけない。ダンジョンを攻略するのに、人にやって貰おうと考えたのが不味かったんだ」

「うじうじするのはみっともないわよ。酒でも飲んで忘れなさい。今晩の見張りは私がしてあげる」


 なんか飲む気にもなれない。

 仕事をすれば忘れられるかな。

 そうするか。

 地球でバリバリ仕事しよう。


 俺は地球に戻った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る